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幻の映像を思いうかべて(その1)
(2016/12/14)
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 先日のアメリカ大統領選。ヒラリー・クリントンが勝つという予測がほとんどだったから、来年、目にすることになるだろうと想像していた光景がある。

 それは、先進国サミット(今はロシアなしの7ヶ国)の、例の「首脳記念撮影」で、七人のうち三人が女性トップ――ほぼ半分!――という光景である。
 今まで最大「一人」だったのがいきなり三人になるわけで、絵として華かやだろうと、ちょっと楽しみにしていた。

 この世界に「華やか」なんて言葉がふさわしくないのは重々承知だが、黒いスーツ群のなかにそうでない存在が入ったとき、パッとそう感じてしまうこと自体はしかたない。


 かつて、英国・サッチャー首相が、先進国初の女性トップとしてあの記念撮影に加わったとき(日本で初めてサミットが開かれたときでもあった)、非常に新鮮な印象を受けたのを思い出す。

 いま、その「おっ!」という感じを伝えるのは難しいけれど、「七人の侍」の一人が、急に男から女へ変わったような変化感というか……。

 サッチャーさんは、初参加のときの記念撮影では、おそらく一人だけヴィジュアル的に「浮く」ことを避けようとしたのだと思うが、男の首脳たちにそろえた黒ずくめの服を着ていた。

 その後、サミット参加を重ねるにつれ、少しずつ明るいガラモノの服などへ、「私だけ違っても、別にいいわよね」というふうに変化していった。

 この人は「鉄の女」と呼ばれ、今回クリントン候補が口にしていた女性政治家の上の「ガラスの天井」を、鉄カブトの頭突きでガンと破った人であるが、ヴィジュアル面では慎重にそろりそろり進んだのだ。

 この先駆者をへて、その後登場した女性トップは、赤い服なども自由に着るようになった。
 ドイツのメルケル首相はこの色がお気に入りのようだ(赤は、やせっぽちより、幅のある人に似合うと、個人的に思う)。

 もっとも、記念撮影にのぞむ女性トップが、一人でなく三人といった状況になると、男とちがい選択が自由であるため、ちょっと別の思いめぐらしが出てくるやもしれぬ。

 「〇〇首相は、何色着てくるだろか?」「うちの国だけ地味でがっかりなんてネットで書かれたら、やっぱりちょっと嫌だわよね」といった考の末、当日顔をあわせたら、「やだ、三人、赤そろっちゃった」となったりして……。

 さすがに、記念撮影の服のことで、国のトップが事前折衝をするわけにはいくまい。

女もすなるからふるといふものを

 上記のような写真はもはや「幻」になったのだが、米国でトランプ大統領が誕生することになり、私がひそかに懸念(期待?)しているのは、この型やぶりな人がサミットの記念撮影に、前例をやぶる大胆な服装――ライトブルーのスーツとか、いっそ、共和党カラーの赤いスーツとか――で臨むのではないかということである。

 あの非常にユニークなヘアスタイルを、積極的に自己アピールにしている人だから、ちょっと大胆なスーツを着るくらい、何でもないと思われる。

 私の知るかぎり、サミット記念撮影のとき、男のトップでそうした未曾有のことをやったのは、日本の麻生首相だけだ。
 かなり白に近い、グレーのスーツを着ていた。
 とはいえ、ブラック&ホワイトの世界の、外へ踏み出したりはしていない。

 かつては「男」だけに許されていた世界に、サッチャー氏が踏みこんだのと同様、今まで「女」だけに許されていた世界に、トランプ氏は踏みこむのではないか?

 男を制約している「ガラスの天井」を、トランプ氏はあの特異な髪型の頭突きで、ガツンと破りはしないか?

 いや、もし誰かがこの人に、「サミットの場で、こういう前代未聞の目立ち方はどうです? 『変革』の強烈なアピールになりますよ」と提案したら、この人は非常に高い確率でそれをやりそうな気がする。

 考えてみれば、奇抜なヘアスタイル同様、これも別に問題行為ではなく、「なぜ女ならよく男だとダメなの? 性差別じゃない?」「古くからの慣例だという以外に、何か合理的な理由はあるの?」という話ではある。

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