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 今回の投票結果の内訳をみると、「意外な結果」という印象は、さらにどんどん消えていく。

 たとえば、いまの社会システムのなかで悪条件にさらされている白人層が、トランプ氏のおもな支持層だといわれていたが、実際には、低所得者層はクリントン氏のほうへ多く票を入れていた。
 伝統的な民主党の支持層は、今回もやはり民主党を多く支持していたのだ。

 トランプ氏をもっとも支えたのは、白人の中流層であった。アメリカで、白人の割合が減るとともに、貧富の二極化がすすむなか、二重の意味で消えゆきつつある人々といえる。

 かつての米国の栄光に、もっとも郷愁がある人々でもあろう。しかし、いまは自らの立場が、回復の見通しがない先すぼみ傾向のなかにある。そうした状況下での、強い危機感……。

 このあたりが、たとえばサッチャー首相が出現したときの英国の雰囲気に、どうも重なって見えてしまうところなのである。

 古き良きアメリカに郷愁をもつような人々は、女性差別など過激発言をしまくる人物を、おおっぴらに支持するとは言いがたい。だからその支持は、世論調査の数値には現れてこない。

 米国の選挙は特殊な2段階システム(一般投票→選挙人)をとっているので、トランプ氏が今回、大統領になったが、国民の投票数じたいではクリントン氏が勝っていた。

 すなわち、世論調査などから、選挙前はクリントン氏が「少し」優勢だと見られていたのが、じつは「僅差」優勢だった(優勢が、小さすぎた)というのが、実際に起きたことであった。

 そこに、トランプ氏ならではの、上のような「世論調査要因」を考えあわすなら、今回の選挙結果はふしぎというより、むしろ細部まで腑に落ちるものになってくる。

根が開放的? 閉鎖的?

 周囲の抵抗を恐ろしく恐れないリーダーシップや、前例の無さという点で、サッチャー氏とトランプ氏は似ているのだが、両者はまた、まったく対照的なところも持っている。

 強烈な「チェンジ」あるいは「摩擦」の方向が、正反対というか……。たとえば、「閉鎖志向」「開放志向」という点である。

 サッチャー首相が、改革の鉄ナタで英国を再生させたとき(ケガ人もずいぶんいたという記憶から、ナタに例えさせてもらいます)、じつは日本も、小さからぬ役割を果たした。

 世界は激変しているようで、半世紀くらいぜんぜん変わらないこともあり、その一つが、先ほどもふれた日本→欧米の自動車輸出による摩擦である。
 サッチャー首相が登場したころ、欧米の産業界や政治家は、いまより格段にきびしい眼で、日本の自動車産業を敵視していた。

 そうしたなか、サッチャー首相は、英国車よりもよく売れてしまう日本車を、外へ閉め出そうとするのでなく、逆に腹中へ呼び込んだ。
 政界や産業界の反対の声を押しきり、当の日本車の工場を、英国内へ誘致したのである。

 あちらには、「アジアの国はもともと、我々の自動車づくりをマネしたのだ」というプライドが、当然あっただろうことも忘れてはならない。

 これは、たとえば柔道の世界にあって日本人が外国人に勝てなくなったとき、その外国人を日本へ招き、私たちがその下につく気持ちになれるか――そんな構図であるといえよう。

 英国の、日本メーカー誘致(日産自動車が皮きりだった)は、大成功をおさめた。国内で「職」を生んだだけでなく、作った英国生産車を他の国へ「輸出」することもできる。
 この成功を見て、欧米の他の国々が、日本のメーカー(自動車にかぎらない)をどんどん国内へ誘致するようになった。

 これに対し、ことし英国二人めの女性首相になったメイ氏が、英国のEU離脱という、歴史的な「非開放」チェンジの実務を担うことになったのは、皮肉といえば皮肉なことである。

 日本の企業はいま、この離脱で英国とEU諸国の間に関税の壁ができたら、工場を英国からEU国へ移そうかなどと思案している……。

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