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対立の構図は?

 オバマ・現大統領は、今回の選挙でヒラリー・クリントンを応援していた。同じ民主党で、政策もほぼ一致していて、自らがやったことを継承してくれる存在なのだから当然である。

 その意味では、今回の大統領&候補者を2グループに分けるなら、「オバマ&クリントン」対「トランプ」という対立構図があるように見える。

 しかし、いまから8年前、オバマ大統領「候補」がどのような存在で、どんな公約を語っていたかを思い出すなら、むしろ「オバマ&トランプ」と「クリントン」陣営という性格分けをするほうが、大統領選挙に関するかぎり、はるかに適切だと考える。

 トランプ候補は、ヒスパニック系の人々の流入を防ぐ壁をつくるとか、アジアの国々を「不公平」と激しく非難するとか、自国の白人層を喜ばす発言をずっと続けていた。

 比率が年々下がっているとはいえ、米国ではいまも白人が3分の2近くを占めており、アメリカの現状に対する彼らの強い不満が、トランプ氏の勝利の原動力であるといった分析がなされていた。
 むろん、その通りなのだろう。

 しかし、そうした人々が当落を決定づける力をもち、しかも、かなり「人種意識」にもとづいて大統領をえらぶのだとしたら、なぜ8年前、黒人であるオバマは大統領になれたのだろうか?

 問題視されるほどの、ヒスパニックの流入の多さからも明らかなことだが、8年前、米国の白人の比率は今よりずっと高かった。
 そのような状況で、オバマ氏は共和党の白人候補を向こうに回し、獲得した選挙人の数が相手の「2倍以上」という、ぜんぜん接戦でない勝ち方をしたのである。

 白人が結果を決する力をもっているなら、彼らのかなりの割合が、黒人であるオバマを支持したとしか考えられない。

 私は今回も8年前も、選挙を左右した重要なキーワードは、「人種」や「性別」や「スキャンダル合戦の勝敗」などではなく、「チェンジ」だと思う。オバマ候補がキャッチフレーズにしていた言葉である。

 「これまでと似たり寄ったりの政治が続いたら、お先まっくらだ」という人々の閉塞感は、このごろ急に高まったのでなく、8年前にすでに、「アメリカ史をひっくり返して、白人が40代の黒人をわが統領へ登らせる」ほどに存在していたのである。

よく似た主張

 加えて、オバマ氏が大統領「候補」として登場したとき、どんな政策を人々に語ったかも思い出すべきだ。
 彼のいう「チェンジ」というのは、「内向き主義」「閉国」への変化も意味しているのかいなと、スピーチの内容がちょっと意外だったのを覚えている(民主党だから、「すごく意外」ではないにせよ)。

 オバマ大統領は、わが国に「TPPをぜひよろしく」と言ってきた人なので、自由貿易に前向きなイメージが何だかある。

 しかし、彼は大統領「候補」時代、たとえば北米のお隣さんとの自由貿易協定であるNAFTAを、米国の国益をそこなうものであると非難していた。トランプ候補とまったく同じだ。
 主張を変えたのは、大統領になってからである。

 また、アジアの国々に対しても、「彼らは米国の車をほとんど輸入しないのに、こちらへ車を大量に輸出してくる。問題だ」と、当時のブッシュ大統領に対し、アジアとの自由貿易協定を非難する発言をしていた。

 そうした、今のトランプ氏とそっくりな主張とともに、オバマ氏は大統領選に勝ったのである。

 米国民の投票動向は、最近変化したのでなくむしろ「一貫」している。
 オバマ氏とトランプ氏は、実は近いところがけっこうある存在であって、二人と非常に遠い人物として、ヒラリー・クリントン(前任者の政策継承、従来どおりの政治家、要するに「非チェンジ」)がいたと見るべきだと思う。

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