微妙な違いと大きな違い
今回のアメリカ大統領選挙では、クリントン氏が得票数じたいは勝っていたという話を先ほど書いた。「アメリカ人の意志」を正確にとらえる上で、勝敗とは別にこれは一つ記憶されるべきことだろう。
なぜトランプ氏のほうが、より多くの国民に支持されたのかという分析のしかたは、事実に合ってはいない。
よその国がとっている選挙制度は、むろんそのまま尊重すべきだけれども、国民一人ひとりの投票で勝っている人物に政権が託されないしくみは、どうもふしぎだ。その「メリット」が、よくわからない。
こういうネジレで何といっても思い出すのは、21世紀に入る直前(2000年)のアメリカ大統領選、ブッシュ-ゴア対決で、ゴア氏が得票数では上回りながら選挙に負けた例である。
仮に、国民の支持多数のゴア氏が大統領になっていたら、あのそうとう強引なイラク・フセイン政権つぶしも、その後のイラク内の無政府状態も、ほぼまちがいなく起きていない。
そうであれば、欧米への反感=「イスラム国」がらみの多量の中東難民も、それに対する各国の「閉国」意識の高まりも、トランプ氏がバネにした米国内の反イスラム感情も、状況は大きく異なっていたはずだ。
英国のEU離脱では、離脱をめざす陣営が、「難民流入を制限するためにも、壁を」といったプロパガンダをしていた。
ドイツではメルケル首相が、難民受け入れ姿勢のために、支持率を急落させた。
すなわち、今世紀直前のゴア氏の敗北は、クリントン氏にも、メイ首相にも、メルケル首相にも、非常に大きく影響しているのである。
歴史に「たられば」は無意味だが、それでもつい書いてしまいたくなるほど、あの選挙の結果は、「21世紀の地球」を大きく変えた気がする。
「地球」とまで書いたのは、CO2の大排出国アメリカにあって、ゴア氏が地球温暖化防止を強くうったえていたためだ。CO2と温暖化の因果関係を、簡単に決めつけるわけではないけれど……。
ふたたび、幻の映像を思いうかべて
ここでまた、冒頭に書いた「幻のサミット記念撮影」の話へもどりたい。
クリントン候補は、大統領になっておかしくない高さまで実際に登ったといえようが、この女性3人の顔ぶれで、ちょっと注目したいことが二つある。
一つは、この人たちが属す国である米国・英国・ドイツが、先進国七つのなかでも、特に政治的に力をもったメジャーな国々であるということ。そうした国で、女性政治家がトップになる(&なりかけた)時代に、いまはなった。
そして二つめは、これら3国が、サミット7ヶ国にあって、きっちり「ゲルマン系」の3国になっていることである(アングロサクソンはゲルマン民族の一つだ)。
二つめの点は、かつての英国サッチャー首相もふくめれば、「4人そろって」という言い方もできよう。
この「そろって」は、たまたまであろうか?
私は、必ずしもそうではないと考える。そしてこのことは、今回の「トランプ現象」とも、深いところで通じているのではないかと思う。
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