混雑、大きなもの、大阪(その3)
(その2続き)
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さて、ここからは話のトーンが少し変化する(しかし、内容は完全に地続きで、関東-関西の話である)。
良くなるかと思ったら、反対に……
日本だけでなく、外国で起きた事なども見聞きしていて、これはもう一つの公式のように、どこでも起きてしまう現象なのだと感じていることがある。
たとえば、国の本土から少し離れたところに島があって、人が住んでいる。それらの間の、船での行き来が、あるときから格段に便利になる。あるいは、両者の間に橋ができる。
島の人々は、これでわが地の不便なところが減る、今までより良くなるだろうと想像する。
しかし、実際にはどのようなことが起きるか。
その島が特別な長所(資源や観光名所など)を備えている場合は別だが、そうでない場合、行き来が簡単になったことで、むしろ島からの人の流出が始まってしまう。
高齢者は、慣れた土地を離れようとはあまり考えないけれども、特に若者が……。
それは、移った先のほうが仕事を得る機会が多いとか、収入がより良いといった理由による場合もあろうし、刺激に満ちた繁華街が存在するとか、エンターテイメント/文化的なモロモロに富んでいるといった理由による場合もあろう。
以前は頭のなかで比べもしなかった二つの場所が、行き来が簡単になったことで、現実的な比較の対象へ変わってしまう。
これよりずっと一般的なのは、地続きの場所の間に高速鉄道などができ、遠くの大都市が、それまでよりずっと身近になるというケースである。
あるいは――しばらく前に、南米にインテルオセアニカ(Rodovia Interoceanica)という、大陸横断高速道路が作られた。
アマゾン低地から、アンデス山脈の高地までを結ぶ、総延長が、北海道の北端から鹿児島の南端までの距離より長いという、すごい道路である。
アンデス高地には、広く点在した形で暮らしている人々がたくさんいる。それが、近くに道路が通り、人の行き来が容易・活発化すると、やはり上記のような変化が生じているという。
ある意味では、不便さこそが、分散的なコミュニティを継続させていたのだ。
日本の場合、上のような意味で最も広範、迅速に進んでいるものは、鉄道網の整備であろう。
新幹線が北海道~九州を貫き、おそらく世界一、首都と国の各地が便利に鉄道で結ばれた国になっている。
強烈な引力の地
ここで、次のことに注目したい。
いま、日本の47都道府県のなかで、人口の増加が最も「大きい」ところはどこだろうか? 直近の統計によれば、東京である。ダントツの人口増加率だ。
この「1位」を、次の事実と照らし合わせてみる。
合計特殊出生率――ひとりの女性が一生に何人の子供を産むか――という数値が、よく話題にされている。
日本の47都道府県のなかで、この数値が最も「低い」ところはどこか? これもまた、東京である(やはり、ダントツで低い)。
日本一、出生率の低い東京で、人口が日本一増えている。
これは、東京がどれほどすさまじい引力で、他の道・府・県から人を吸引しているかを示している。
交通網の整備で、互いの行き来が簡単になったことは、その最大の原因の一つだろう。
東京は地価が高く、住居はせまい。保育所も利用困難。出生率ダントツ最低が示すような結果に必然的になる諸要因がある。
そうした、次世代が誕生するという点では条件最悪の地へ、日本中から特に若者が次々に流入する。
日本の今のありようは、何だか「蟻地獄」に似ていまいか。周囲から、ある一か所へ集まるしくみがあり、同時にそこには……。
リニア新幹線が、東京-名古屋間で先行開業される。これに関して、昨年の大阪の選挙で、「大阪までの延伸時期の前倒しを!」という訴えがなされていた。
私はこれを聞いて思った。
こうしたバキュームポンプ的パワーの、「人材(特に若手)吸引シティ」である今の東京と、鉄道によりきわめて便利につながることは、つながる側の街にとって、はたしてプラスなのだろうか?
就職にかかわる状況は、日本のどこであれ、ずっと良くない。しかし、首都圏と他の地域を比べると、少なくとも現在は、相対的に首都圏のほうがいろいろな機会に富んでいる。
東京が「容易に行ける圏内」へと変化し、現実的な比較の対象になったなら、上記のような強烈な引力が働き出す可能性は高いだろう。
名古屋-東京が40分、大阪-東京が1時間ちょっとだというリニア新幹線の近さは、安くはない運賃のことも考えたなら、「通勤」に適した近さではない。
いいかえれば、故郷に住みつつ、仕事は東京でといった近さではない。
むしろ、「いつでも帰省できるな。それなら東京へ引っ越すか」という感じのする近さではなかろうか。
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