東京に住む人には、一極集中のありようは喜ばしいのではないか――そう考える人があるかもしれない。しかし、それは正しくない。
過度の密集状態は、不快な種々のことを生み出す。
通勤時間は、1時間半(東京では珍しくない話)よりも、たとえば10分のほうが明らかに望ましい。
先述のような、住居にかかわる制約(狭い、住居費が高い、緑に乏しい等々)も、むろん大きな問題の一つだ。
あるいは交通渋滞……。
日本のような地震国で、いろいろな分野の中枢をすべて一ヶ所に集中させることは、非常に危険でもある。賭博における、大胆すぎる一点張りみたいなものだ。
東京にあって、国の中枢機能が突然停止してしまう危険性は、近ごろ、地震以外の要因でも増している。
先日、次のような報道に接して、この一極集中都市のもろさを改めて知らされた。
まさしく荒川の名のままに……
最近、気象条件の変化で、局地豪雨がふえている。
昨年9月には鬼怒川で、堤防が200mにわたって決壊し、街が飲みこまれる恐ろしい事故があった。
東京の東部を流れる大きな川、荒川もまた今、「豪雨が生じれば、いつ決壊してもおかしくない」状況にあるという。
そこには、洪水防止が本質的に困難な、人口密集地特有の事情があるのだが、詳細は長くなるから省略する。
内閣府の試算によると、荒川が決壊すれば最悪の場合、水は大手町など国の組織の中心はむろん、ずっと西の目黒あたりまで達し(これは、数時間といったスピードで起きる)、1400万人に影響がおよぶという。
こうなる大きな原因は、これも人口密集地ならではの、地下街や地下鉄のすさまじい発達である。
この空洞を、あっという間に水が襲い、遠く離れた所で地上に水が噴き出す。またその水が、どこかで地下へ流れ込み……。
各ビルの地下に置かれている電源設備なども、水によって機能停止する可能性がある。
場所が場所であるだけに、日本経済はストップしてしまうだろうという。
ほかにも、この洪水は多くの人が住む低地を深く水没させるが、川と海に囲まれているのでそこから人がすぐ脱出できない、といった深刻な問題が語られていた。
こうした事態はみな、これだけ人口集中して、なお人が日本一増加する首都のありように起因している。
東京→大阪の、勝ち勝ち
そんなこともあって、私は橋下徹氏の「大阪に副首都を」という主張を聞いたとき(まずは東京のバックアップ施設という意味合いのようだが)、「ぜひそうなるといいのだが」と感じた者である。
いや、昨年の選挙では、おおさか維新への対立陣営もまた、「近畿メガリージョン構想」といったスローガンで、東京一極集中の是正を訴えていた。
あの選挙は、大阪を二つに分断させたできごとと言われていたが、私は逆に、最終目標という点で、大阪は実に一枚板だなとも感じたのである。全体をきれいに貫いているものがある。
東京に、このように全政党・市民が思いを共有する目標が何かあるかと考えると、思いつかない(むろん「景気を良く」といった、どこでも誰もが願う事柄はあるけれど)。
大阪に、このように「うちは、喜んで引き受けまっせ」意欲がある。
一方、先述のように、過度の集中を減らすことは、地震国の首都・東京としても、さまざまな危険や不快の根本的緩和につながる。
片方の得が片方の損といった関係でない、ウィン-ウィン状況がここにもあるように思うのである。
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