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無駄なすごさのインパクト
(2018/11/29)
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 半世紀ほど前になるが、サンスターが「アーム筆入」という文房具を出し、当時の小・中学生界を風靡した。
 テレビCMで、ゾウがこの筆箱を踏みつける映像が流され、「ゾウが踏んでもこわれない!」という売り文句が語られる。

 「教室や家に、ゾウが入ってくることがあるのか?」という素朴な疑問をいだきつつも、平たい小箱がゾウ重量に耐える視覚的事実に、「すごいモノが出た!」と、衝撃を受けずにおれなかった。

 いま大人として当時の気持ちを表現するなら、あの文房具にキラキラした「先端技術性」を感じたといえるだろう。

 この商品を実際に買った子は、クラスメートみなの注目をあびた。値段もふつうの筆箱より、一段高かったような……。

 ジャンプしてガンガン踏んだらこわれたといった話も、直接見たのではないが伝わってきた。
 そこに漂っていたのは、「実際はアーム筆入、言うほど丈夫じゃないよ」ではなく、「ゾウにできなかったことを、僕はやった」という、男子の変な勝利感みたいなもの。

 余談であるが、しばらく前、生放送の民放テレビ番組にIKEAのイスの宣伝コーナーがあって、耐久性が売りのこの商品を、お笑いコンビのオードリーが力まかせにロッキング運動させ、ついに「バキッ」とこわした放送事故的シーンが話題になっていた。

 「630万回以上のテストに耐えたんですよ」「630万回だって!」とスポンサー商品の長所をみずから紹介したのち、何かに憑かれたように二人でイスの揺らしを加速させ、あげく脚部が折れて二人とも転倒したというもの。

 仰天し、「正しく使えばこわれません!」と必死にフォローする番組MCたち。うち一人は、しゃがみこんで画面から外れ、笑い顔を見られまいとしていた(でもマイクはきっちり笑い声をひろっていた)。

 メーカーから、とてつもない「丈夫さ」が強調されるさまに、何となく挑戦的なものを感じ、「これでもか!」「これでもか!」と商品に力を作用させていった点で、オードリーは、アーム筆入をくり返し踏んでこわした子供たちと、時をこえて感覚を一にしていたといえるだろう。

 このIKEAのイスの商品名は、「アーム筆入」ならぬ、「アームチェア」であった。もしかすると神のいたずらかもしれぬ。シバ神あたりの。

 サンスターによると、ウルトラヒット商品「アーム筆入」は当時、年間500万個も売れたという。今ではいろいろな意味で考えられぬ、とてつもない数字だ。

 物が文房具だのにあんな宣伝が出現したのは、経済白書が「もはや戦後ではない」と書いた高度成長期に日本が入り、実用性や安さだけが重んじられる状況を脱して、「遊び」が足される余裕が生じたためではないか。
 日本が欧米製品のマネっぷりでなく、技術力で世界を驚かせはじめたころでもある。

デジャ・ビュ

 すでに想像された方もあると思うが、今回の本題は、少し前に話題になった「ハズキルーペ」のテレビCM(渡辺謙、菊川怜編)である。

 渡辺謙が、お客さんぎっしりの会場の丸いステージに立ち、唐突に、硬いイスの上にハズキルーペをのせる。ミニスカートの菊川怜がその上にすわる。びっくりして立ち上がるけれど、ルーペはこわれていない。

 このCMは、変といえば変なところがいろいろある。
 老眼で字が読めなくなる不快感を、キラキラ照明のなかあそこまで激しく叫ばなくていいじゃないかとか、「ちょっと、見ていてくださいね」と皆に注目させ、カチンと音をさせてルーペを置いたのに、菊川怜が踏んですごくびっくりするとことか。

 ビシッとしたOLふう(あるいはモデルふう)の彼女が、最後に手でハート形をつくり、急にアイドルふうになる展開もそう。しかし、これらすべてが妙にフックとなり、CMとして強く印象に残ることも確かだ。

 私は、ゾウが文房具を踏む映像を思い出しながら、「歴史はくり返す」を感じていたのだけれど、このヒットCMについて書いた雑誌記事を読み、なぞが解けた思いがした。このCMのアイデア・脚本・演出は、すべてハズキルーペの松村会長によるという。

 記事には会長の年齢も括弧でそえてあり、ほぼ同世代ゆえすぐピンときたのだが、1967年から放送開始という「アーム筆入」のCMに対し、松村会長はそのころドンピシャ小学生だったはずだ。

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