私はこのような特質をもつ「風」を、今の感覚でアレンジし、リメイクしたらおもしろいと思うのだ。
「風」は全41話つくられ、話数の多さからパターン化が必要だったせいか、わりとすぐルパン色を離れて、新十郎による勧善懲悪ドラマになっていく。
しかし、これを全13話くらいの、全体が流れをもった、元来の怪盗ドラマにしたってよかろう。水戸黄門とちがって、長い伝統による縛りがあるわけではないのだ。
これが完全新作であれば、「いまさらルパン? 二番煎じどころか何番煎じだ?」となろうが、「風」は、「ルパン三世」アニメの4年前に放送された作品である。こちらこそ、テレビでのルパンものの先がけなのだ。
このドラマの魅力の一つは、シリアスなトーンの回と、思いきりコミカルな作りの回が、同じ出演者のもとで混じっていることであった。
担当した脚本家/演出者の違いによるのだろうが、毎週見ていて飽きない一つの要因だった。
怪談風味の回、推理風味の回もあったような……。
私は「水戸黄門」の場合も、せっかく主役に達者な俳優を起用したのだから、コミカルなトーンの回をつくったり、印籠威圧なしの金八先生的な「父性」の人情噺をつくったり、シリアスな問題を描く回をつくったり、色あいに変化をつけたらいいのにと思う。
「風」には、先ほど書いたように土田早苗演ずる「かがり」という女忍者が登場する。このキャラクターこそ、水戸黄門の「くノ一」の、ずばり源流であろう。
「風」ときっかり同じ時期にTBSが放送した「ウルトラセブン」には、ひし美ゆり子演ずる「アンヌ隊員」という、強い印象を残して伝説アイドル化した存在がいた。
オトコマエの主人公との間で、ほのかな恋愛感情的なものが描かれるあたり、「アンヌ」と「かがり」は共通していた。このあたりも、番組の引力の一つになっていたのではないか。
それにしても、「風」の主演の栗塚旭は、マゲ姿が似合うじつに美麗な俳優であった。この点、ルパン三世とはまるで逆イメージへ行きましたな。
ネットのオンデマンド・サービスにより、最近どんどん、むかしの映画やテレビ番組を観ることが容易になってきた。
時代劇ファンの方もそうでない方も、もし「風」を簡単に視聴できるときがきたら、このシリーズのなかの「誰がための仇討ち」(第21話)という1話を、ぜひ観ていただきたい。
かの実相寺昭雄が演出した作品で、私はこの1本、何度観ても飽きることがない。
勧善懲悪を虚無的に逸脱したストーリーに深みがあり、名画「第三の男」を思わす光と影の映像表現があり(どこで止めてもそこが美しいシャシンになっている感じ)、3種のバラエティに富んだアクションシーンがあり、ゲストふたりの主役を食う名演があり、最後におそろしく印象的なラストシーンが待っている。
実相寺監督は、「ウルトラセブン」や「怪奇大作戦」の数話も演出していて、いずれもファンに絶大な人気があるが、私見では「誰がための仇討ち」がベストである。
水戸黄門からピンクレディーを思い出した話
冒頭に書いたように、私は今回の「水戸黄門」を観て、作り手が視聴者ターゲットとして意識していない重要な存在が、もう一つあるように感じたのだ。
そこではそれを、緑に対して「赤」と呼んでみたのだった。
これもまた、過去に気づかれていなかった「渇望」や「穴ぼこ」に関わっていて、先ほどの阿久悠の話にいろいろな意味で通じている。
「水戸黄門」シリーズには、途中から新しいキャラクターとして、一行とともに旅をする「くノ一」が登場し、人気を得ていた。
先輩ドラマ「風」の、「勇ましくアクションする女忍者」の残像が、おそらくそこに影響していよう。
今回の番組は、たいそうかっこいい「風車の弥七」(お供衆より10倍有能な元悪人)をふくめ、男4人だけの旅であった。
ユーモア担当の脇役がいないのは、主役が主役だけに不要ということでしょうね。
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