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原因はどこに?

 宗教のほうから「女はこれをしてはいけない」という強い制限がある社会(たとえば、体のごく一部しか外に見せてはならないとか)とちがい、日本人の気質・文化が他にくらべ、特別に「男でなければだめ」という性向をもっているということはないと思う。

 そう見える場合(これがあることは否定しない)、その原因はむしろ、先ほど「水(海)の近くにある土地」に例えた、日本人の性質のほうにあるのではないか。

 すなわち、時代をさかのぼれば、どの民族も男中心でやっていた歴史をもっているが、日本人の場合それに加え、「今までこうやってきた」何かを大きく変えることへの抵抗感が、良くも悪くも非常に強い。
 これは、男だけでなく女の傾向でもあろう。

 日本では、政治家は国民の直接投票でえらばれる。国民の半分は女だから(というか、女のほうが多い)、その気になれば状況をがらり変化させることは可能だ。

 誰々に入れよと、投票先を強制する力を、男がもっているなんてことはない。にもかかわらず、現状はこんなふうになっている。

 先進国のなかで、わが国は政治家の女性比率が、(下へ)とびぬけて低い。そうした状況に対して、「日本の男は、頭が固い」といったボヤキを耳にすることがある。

 しかし、投票のとき、女じたいがそもそも、「女性政治家は、何だか頼りない」「男でないと、ちゃんとつとまらないだろう」と考えるせいで、こうなっているということはないのか。
 選挙で政治家をえらぶ際の、オトコ側の力を、過大評価してもらっては困る。

 選挙権というのは一生あるものだから、平均寿命の男女差から見て、男が有権者数で「多数派」になる可能性は、わが国にはない。そうした本質的弱者に対し、そっちの責任だと責め立てるのは、弱い者いじめではないか。固いのはどっちの頭だ。

 まあ、肌の色が一緒であるのと同様、たぶん、両方とも固いのだろう。

 先述のように、いまや日本には、女の首相候補や、女性知事や、女性党首が、少なからず存在している。

 ただ、この状況をわが国が独自に、自発的に生み出したかというと、疑問だ。

 日本人は昔から、「欧米があんなふうだ」という事実に、とても敏感である。そのさまに合わせないといけないという思いが、何だかある。

 「うわ、イギリスでは、女の首相が生まれちゃったよ!」「ドイツやフランスなんかにも、スカートはいた議員、けっこういるな」「男だけで政治やってるような状況は、欧米に後進的だと笑われるんじゃなかろうか」――そういう精神的外圧が、わが国の変化にかなり効いたのではないかと、私は疑う。
 たとえば、女性首相候補の出現に(あるいは、それを「そろそろアリかな」と大勢が感じることに)。

 そういえば中国でも、このまえ中央政治局常務委員が新たに選ばれる際、劉延東という、初の女性委員が誕生しかけた(結局、入らなかったが)。
 あれは、中国が経済大国となり、欧米をしだいに真横から見るようになるなか、わが国と同様の思いが生じてきたものではなかろうか。

 国民性というのは、そんなに急に変わったりしないものだ。だから変化は今後も、基本的にはゆっくりしたものかもしれない。

 ただ、この種の状況が、ある世代からガサッと変わることがもし起きるとすれば、それは例えば――。

最後もやっぱり、幻の映像を思いうかべて

 子供のころ、テレビのニュースを、ニュースなんて興味はないがたまたま見ると、そこに日本や外国の政治家が映った。そうした人々は、社会主義国にかぎらず、基本的に男ばかりであった。

 自分が把握しつつあるのこの世界は、そう構成される素性のものなのだという知識が、自然に心に刻まれた。

 だから、女のリーダーというと、「それは変だ」という感じが、理屈でどうこう考える以前に、パッと心に浮かぶことになる。
 身近な生活でも、集団のまとめ役に女の子をえらぶのは、適切でないという感じがわく。

 これに対し、たとえば子供が見るものが、「サミット(頂上)の首脳七人」が談笑しながら歩く映像で、そのうち三人が女の政治家という光景だったらどうであろうか?

 たまたま女性三人、服が赤でかぶり、首脳の並びが黒、赤、黒、赤……だったりすると、「ああいう人になっても、色分けはランドセルと同じなんだ!」という感想をいだくかもしれないが、そこまで色が対照的でなくても、心に刻まれる世界観はえらく異なるものになるだろう。

 次代の日本国とは、要するに彼らであるゆえ、将来の政治家の構成に、大きな変化が生じることになったかもしれない。
 何しろ視覚的なものは、あの効果バツグンの「小池作戦」ではないけれど、単純明快なだけにインパクトが強い。

 加えて、これは「いつまでもそんなでいいのか!」と自問しつつも書くのだが、「欧米がああ動いている」という認識は、やはりわが国の動向に、大きな影響を与えることはまちがいないのである。

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