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 こうした状況にあっては、もし可能なら、無数の個人に情報伝達の経路に加わってもらう工夫も、必要とされるのではなかろうか。

 もちろん、そんなことを「強制」できるわけもなく、PR側が何か磁力あるものを作ることで、結果としてそうなるという意味であるが。

 たとえば、ふつうはそれ自体、別におもしろいものではない「店舗ビル」を、人々が自発的に撮ってネットに上げたくなるような「何か」にするというのは、その一方法といえよう。いわば、「かに道楽に学ぶ」である。

 先ほど、ヨドバシさんの名を借用して(ネガティブな意図は全くないのでご容赦いただきたい)、「Yodobashi Gamera」というしゃれを書いた。

 これは必ずしも、ただ冗談というより、そんなネームプレートを胸につけたガメラ像が実際に建つさまを想像すると、そこに多大な価値が発生するように思ったのである。

 この巨大像を撮影した、たとえば外国からのお客さんは、主に「Gamera」ゆえに写真やビデオをネットに上げようが、それを見る全世界の人々の目には、「Yodobashi」の名も一緒に焼きつくことになろう。

 言葉は悪いが、お客さんたちに店名をタダで国際広報してもらう結果となる。恩恵は、像を作った店舗かぎりではなくなる。

 かに道楽の、あの「大ガニ」の製作費がどのくらいなのか、私は知らないが(数百万円といったところ?)、店の名前が日本中に知れ渡った「効果」と比較したら、その宣伝効果の「てこ比」は10倍、ひょっとしたら100倍を超えているのではなかろうか。

 ヨドバシカメラがガメラ像の建立に関心なきようであれば、たとえばビック・カメラがこれに乗り出してくれないだろうか。

 ビック・カメラの屋上に、「ビッグ・ガメラ」がのっているというのは、しゃれとして一段上等といえよう。

 「ビッグ・ガメラ」の、「グ」と「ガ」の濁点の電光だけ、点けたり消したりしたら面白いと思う。
 あるいは、「BIG GAMERA」の、二つのGの「T」部分だけ明滅させ、「BIG GAMERA」と「BIC CAMERA」を切り替えるとか。

 インターナショナルに通じるので、ビデオに収めてネットに上げたくなる外国のお客さん、多かろう。何らとがめられぬ、アイデア勝負のステルス広告。

東と西に、ひとつがい

 奈良に、薬師寺という名刹がある。有名な「三重の塔」――一見、「六重」に見える――があるお寺だ。

 この塔は、「凍れる音楽」とまで評された美しい建物である。私見では、六つの屋根の大きさに絶妙の凹凸をつけた古人のセンスが、仏骨のお住まいを魅力的な旋律「にも」していると思う。

 私はここが好きで、拝観リピーターなのであるが、境内には数十年前、「東塔」だけがぽつり建っていた。これ単独でも、もちろん魅力があった。

 しかし、焼失した「西塔」が近くに再建されてみると、「バランス」が本質的に生む快というか、「両雄」がきっちり揃う感じというか、格段に魅力が増すのであった。

 たとえばそれは、仁王像が左・右にいかめしく立つ光景とか、東西横綱が土俵で対峙するワクワク感などとも、どことなく重なっている。

 はなはだ妙な連想で恐縮ながら、都会のビル街にゴジラの巨大像が存在していると、それならぜひガメラの巨大像も、と感じてしまう感覚も、何だかこれに通じている。

 両者は、わが国怪獣界の二横綱として、怒れる仁王もこんなでなかろうという暴れぶりで世界を魅了した存在なのだ。

 東京の地に立つ巨大像としては、すでにゴジラ、ガンダムという人気スターは押さえられ、いずれも人々を強力に引きつけている。

 広い世代&世界に名を知られた、残る日本の巨大スターはわずかだ。「ガメラ像」建立を巡って、いくつかの街で争奪戦が起きても私はふしぎでない。

 もちろん、ガメラは映画会社が権利をもつキャラクターである。神だけが著作権をもつカニとはちがい、その知名度を好き勝手に利用できるようなものではない。
 ただ、まさにこの「知名度」に関して、思うのであるが――。

ウィン-ウィン

 歌舞伎町に作られたゴジラ像を見て、もう一つ感じたことがある。
 それは、ゴジラというキャラは歌舞伎町に貢献するだろうが、歌舞伎町もまた、ゴジラに大きく貢献するだろうということである。

 ゴジラは名高いキャラクターだけれど、出身地日本でさえ、あらゆる世代になじみがあるかといえば、けっしてそうではない。

 ゴジラ映画は10年間も途絶えていたわけで、昨年のハリウッド版ゴジラのヒットがなければ、いまの子供はこの怪獣にさほど見覚えがないはずである。
 自分がまるで知らない何かの映画を、強く「見たい」と欲する人はいない。

 しかし、多くの人が訪れる街に「常設」で大きなゴジラ像があり、全国ネットのテレビでその姿がちょくちょく映ったりするなら――その怪獣が動く「映画」を見に行きたいと考える子供も、当然たくさん現れよう。

 (ゴジラはかつて、映画で新宿を暴れまわっていたが、もし彼が今の新宿・歌舞伎町に現れたら、あの像にどんなリアクションを見せるだろうか? 未来のゴジラ映画でぜひ描いていただきたい)

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