Site title 1

多極化が目指されて、はや……

 日本一のグローバル企業の本拠地は、どこにあるか? それは、首都圏でも近畿でもなく、愛知県の豊田市に存在している。

 大昔、私はいちどトヨタの本社へ行ったことがあるけれど、名古屋から、かなりかかるもんなんだなあという印象が残っている。
 東京近くに本拠地がないと、国内外で活躍することが難しいわけでは全然ないのだ。

 ある事情から、私は「多極分散型国土形成促進法」という名の法律ができた時期に、記憶がある。1988年のことで、「平成」年号が始まるちょうど前年だ。

 今年はもう平成28年。つまり、こういうズバリの名前の法律が作られて、30年近くたってなお、日本で人口がいちばん増えている土地は東京という状況なのだ。

 問題意識はこのようにずっと持たれてきたなか、地域の事情をよく知る有識者・官僚・政治家などによって、「このようなインセンティブ(そちらへ動くと利益があるといった動機づけ)を作れば、地方で活動しようとする組織や人が増える」といったアイデア自体は、すでにどっさり存在しているだろうと思う。

 長く努力が重ねられつつ事が進まなかったのは、効果をもつしくみを現実化させる「原動力」、背後からの強い押しが得られなかったためではないか。

 私はこうした原動力になりうるものがあるとすれば、このまま行くと日本という国はゆっくりだけれど消滅へ向かうぞという、国全体にあってのひりひりした危機感の共有だと考える。

 周囲から1点へ人がどんどん吸引され、そこで構造的に子供が生まれにくい。このありようを先ほど「蟻地獄」と形容してみた。

 それは、わが国にこうした高効率の「滅び」のメカニズムが現に存在してしまっていることを、くっきり、端的に表現してみたかったためなのである。

 先ほど、二つの地域の間の交通の便が良くなると、より大都市の側へ、特に若い世代が移動するという現象について書いた。
 高齢者は慣れ親しんだ土地を離れたがらないが、逆に若者には新鮮なものを見たい欲求があり、何より就職機会の問題がある。

 鉄道網の拡充や高速化は、他の条件が今のままであれば、そのまま上の蟻地獄の吸引を「高速化」させる方向に働くだろう。

 分権のいちばんの旗手になりそうな大阪で、「リニアの建設を前倒しさせ、当地を活性化させる」ということが語られている。
 しかし、そのことの実質的意味は、「バキューム吸引シティ」東京と、1時間ちょっとで結ばれる時期を早めるということなのだ。

 「東京と便利に結ばれれば、若者ほどそこへ吸引される」という感覚は、大都市・大阪にかぎらず、そのあたり敏感に感じられそうな小さい町をふくむ全国にあっても、それほど多くの人に抱かれてはいないのかもしれない。

 しかし、逆にいえば、交通だけ便利にすることは地元にとってむしろ「危険」だという見方が、日本中で共有される変化がもし起きたなら、今までとは流れががらり変化する可能性がある。

 そうした変化によって、分散的なあり方を促すしくみが実際に作られれば、そこへの移行においても、その後の状況にあっても、交通手段の発達や高速化は、今度はくるりとプラスへ意味を変えるだろう。

最初へ 前頁へ 1  3 4 次頁へ