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 体操の床種目などを見ていると、筋肉をすばらしく発達させた選手たちの全身運動が、固いどころかきわめて柔軟で、しなやかだという印象を受けずにおれない。

 たんに前屈がペッタリ曲がるといった柔らかさではなく、ひねりや宙返りなど、体全体のキレにおけるしなやかさである。

 ラテン系の内野手たち――イチローの表現を借りれば――もまた、強い筋力と、ゴムまりのような体の柔らかさを同時に持っている。

 野球選手は上半身の筋トレに励まないほうがいい――そんなふうに一概に決めつけることはできないのではないか。

 これは、セカンドやショートのみならず、ピッチャーにあってさえ言えることかもしれない。

 昨年(2013年)は、メジャーリーグで日本人ピッチャーが大活躍した年であったが、地味な点ながら非常に意外だったのは、マリナーズの岩隈久志――日本では「ガラスのエース」などと呼ばれ、週1回の出番でも、肩やひじの故障でひんぱんに離脱していた――が、中4日が基本のメジャーのローテーションを1年間守り、アメリカン・リーグ第3位の219.2回(イニング)も投げたことであった。

 ア・リーグは指名打者制を採っているため、もともと全体にピッチャーの投球イニング数は多めなのだ。
 そんななかで、かつてのガラスのエースが「タフさ」において、アメリカのほとんどの投手を上回ったことはすごい。

 おまけに、ベテランの域に入っているのに、メジャーへ行ってから球速までアップした。
 球威をヤワにしたせいで、そのように長持ちしたわけではないのだ。打線がきわめて弱いチームに属しつつ、手ぬきで14勝6敗などという成績をあげられるはずもない。

 岩隈投手はそのあたりの変化について、米国式のトレーニング方法を取り入れ、肩や体幹の筋肉強化を行った結果であるとインタビューで語っている。

 ダルビッシュもまた、メジャーへ渡るしばらく前から熱心にウエイト・トレーニングを行い、上半身の外観をがらり変化させていた。
 筋力の強化が必要だという思いは、あちらの野球を実際に体験してから、さらに強くなっているようだ。

 冒頭でふれた城島健司も、ウエイトなどによる筋トレの重要さを強調している人である。

 若いころは「筋トレで体が大きくなったらバットが振れなくなる、球が投げられなくなる」と思っていたが、アメリカ人のパワーに近づこうと実際に筋トレに励んでみると、「筋肉がついてマイナスな要素はまずない」と感じるようになったという。

 インタビューで彼は、打撃への好影響について、「筋力があると、球を遠くへ飛ばせるだけでなく、球をより引きつけた点で打てる」という効用を語っている。

 それは、手もとで微妙に動くタマ全盛のいまの野球界にあって特に効くことだろうが、打撃のみならず、彼のメジャーでの高い盗塁阻止率もまた、そうした筋力に支えられていたのではないだろうか。

 捕手も、内野手と同じように、足が十分活かせない状態で、遠くの塁へタマを投げねばならないポジションだからである。

 (このインタビューには、メジャーの強打者を至近距離で観察しつづけた捕手ならではの、興味ぶかい指摘がいろいろ含まれていた。
 いまちょっと調べたら、動画投稿サイトにその映像のアップがあった。興味のあるかたは、キーワード「城島」「打撃論」でネット検索してみてください)

 むろん、これは、走り込みなどによる足腰強化が大切でないということを、意味してはいないと思うけども。

 それにしても、下半身主体で投げている日本人のほうが、腕の酷使ということにあまりためらいがなく、強靭な上半身を作り上げているアメリカ人のほうが、実際の「投」では腕の保護にやたら気を使っているというのは、あべこべのようで皮肉な話ではある――。

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