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 しかし、実際にはこうした「こわい映像」がゴールデンタイムにばんばん放送され、みながそれを楽しんできた。
 それは私たちがこれを、「現代もの」と同じ見かたでは観ていないためである。 
 ドラマはそもそも作りごとながら、もう一段上の作りごととしてキャッチしているというか……。

 主人公が、刀で相手をエイヤと斬る。着物がぜんぜん切れてないのに、相手は倒れて動かなくなる。

 これは剣道で、胴をバサッと打たれたらその人は敗退というのに似た、一種の「約束」の世界だ。私たちはそれを少しもリアルに受けとめない。

 それゆえ、子供が起きている時間に時代劇を放送してけしからんとか、家族がショックで気絶したとか、苦情を寄せる人はいないのだ。

 しかし、だからチャンバラの場面を、みなが完全にダンスでも鑑賞するように見ているかといえば、そうではない。
 そこには先述のような、「悪が最後、明快に成敗されてスカッとする」といったバーチャルな効能が存在している。

 視聴者は、物理的にではないが(健全なことに)、気持ち的には悪者を斬っている。
 ここが、そんなことをしたら刑務所へ行かないと変な現代劇とちがう、時代劇フォーマットのいいところであり、メンタルな清涼感をもたらすものとして、「現代」とぴたり斬りむすぶところだと思う。

時代劇がフィットする世代

 時代劇は、江戸時代のような「昔」を描いている。古くさく、基本的に年配の人にしか受けない。
 そうしたとらえ方をする人がいる。これは正しいだろうか?

 私は、時代劇が実はひじょうにフィットするのに、いまあまり視聴者ターゲットとみなされてない層は、「子供」だと思う。自分の子供時代も、ふりかえってのことだ。

 この世代を、自動車運転の若葉マークふうに、ここでは「緑」のイメージでとらえることにしたい。冒頭に書いた2色のうちの一つである。

 子供は大人にくらべると、単純明快なものが好きだ。時代劇は、現代ドラマとちがって複雑な人間関係など描かず、特別な社会的知識もいらず、本質的に適している。

 さらには、チャンバラ的なアクションが、特に男の子は大好きである。観たものに影響されて、そこらの棒きれを振りまわす。

 チャンバラごっご的な遊びは、危険だとして今どき止められるだろうが、少なくとも子供がそうしたアクションを観るのがおもしろいことはまちがいない。
 場合によっては、それがじつに魅力的であるために、剣道のような世界へ進んでいったりもする。

 これは、時代が21世紀に入ったからといって変化することのない、子供の根本的な性質だろう。

アングロサクソンの虚をついたチャンバラ

 子供がチャンバラに魅了されるという点に関して、ここで一つ、わが国のテレビドラマ(一種の時代劇)が、地球の裏の「若葉」を激しくゆさぶった話を書きたい。

 前回この欄で、1978年に堺正章が主演したドラマ「西遊記」が、イギリスやオーストラリアでものすごい人気をえたという話を書いた。

 これを放送したBBCは、内容が子供にはダークすぎるといった判断で、オンエアするにあたり、全52話のうち1/4の話(13話)をカットしたらしい。

 そのことを知った熱狂的ファンが強く要望したのか、放送から四半世紀もたった2004年に、オリジナルの声優をそろえた吹き替えがなされ、13話ぶんのDVDセットが発売されている。
 この番組は、あちらではそれほどの人気なのだ(これとは別に、同じ13話の字幕版DVDも売られている)。

 吹き替えDVDのいわゆる「映像特典」で、孫悟空を吹き替えた声優が、放送当時の思い出を語っている。

 BBCが、まだ最初の1話か2話しか放送していないころ、彼が学校の近くを歩いていたら、休み時間で子供たちが校庭に出ていた。
 そして、どの子も残らず、堺正章の孫悟空のマネをしていたというのである。「これはヒットだ!」とそのとき思ったという。

 この番組では、孫悟空が「如意棒」をもち、妖怪たちと華麗なチャンバラをやる。

 放送のころ子供だった英国人(もしかしたら豪州人)が、ネットに当時の思い出を書いている。

 番組が夜7時ごろ終わると、子供たちが「ブラシ・ポール」(日本の学校の自在ホウキみたいなやつだろう)をもって、外へ飛び出してくる。
 そして、「誰かの頭が切れて開くか(split opened)、誰かが脳しんとうを起こすまで」、毎回数時間、棒でチャンバラをやったというのである。
 あっちの子は激しいなあ。

 かように子供は、国を問わずチャンバラ・シーンが好きなのだ。

 西洋にも剣はあるけれど、かなり重いやつか、フェンシング的な刺す剣である。それらを使った動きは、子供がマネしにくいものだ。

 「西遊記」のカンカン軽快なチャンバラは、まさに「西洋に空いていた穴ぼこ」を埋めるものだったのだろう。

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