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 「太秦」「斬られ役」「テレビ時代劇の斜陽」――この、完璧に日本ローカルな内容をもつ「太秦ライムライト」は、6月に日本で公開されたのち、8月に地球の向こう側、カナダのファンタジア国際映画祭で、なんと最優秀作品賞を受賞した。

 役柄も本業も「斬られ役」である福本清三は、ここで最優秀主演男優賞を受賞した(「斬られ役」って、英語でどう訳したんだろう?)。

 こうした評判を受け、12月からは全米の主要都市で劇場公開が始まった。フランス、オランダといった欧州の国々へも人気は飛び火した。

 作品じたいの力に因ることはもちろんだ。しかし、同時に、日本人が想像する以上に、今も「ジダイゲキ」は世界にとって魅力あるコンテンツなのだと感じずにおれない。

 まさにいま「最前線」でこれに携わっている水戸黄門スタッフは、日本のこうした重要コンテンツを支えているという誇りをもって、次番組へ進んでほしいと思う。


これが武田鉄矢のライフワークなのか?

 以前ここで、今回の水戸黄門のことを書いたときも思ったが、武田鉄矢という人はキャリアの要所要所で、「黄色」系に縁がある人だ。

 俳優としての出世作が、高倉健と共演した山田洋次監督の名画、「幸福の黄色いハンカチ」(1977)であった。

 代表作といえば「金八先生」(1979年~2011年)だと思うが、これはバブル期をまたいだ活躍を反映してか、黄色に光沢が入った色合いだった。
 そして今度はついに、黄門様(2017)である。

 黄色いハンカチでの飛躍から、きっかり40年間、ずっと黄色っぽくある。

 こんどの「水戸黄門」に挿入されたCMなども見ていて、私は武田鉄矢という人の、当人ももしかしたら意識していないライフワークは、ずばり「信号機」なのではないかと思った。

 何がいいたいかというと、こういうことである。






 緑丸と赤丸を両手でかざす、上の美しいシンメトリーをしばし見つめていると、この写真は武田鉄矢という人のキャリアを、背後でずっと貫き通すもののように感じられてくる。

 たとえば「学校の先生」というのは、子供の背中を「よし行け!」と押したり、時に「それはだめだ!」とストップをかけたりして、彼らをリードする導き手であると思う。
 子供たちにとっていわば信号機のような存在であり、上のヴィジュアルと金八先生のイメージは、私のなかでとてもダブる。 

 黄門様が日々なす「勧善・懲悪」となれば、これはもうずばり、「善」に対して緑を出し、「悪」に対して赤を出す行いだ。
 善き人物も悪き人物も、見ると共にびっくり仰天のあの印籠は、見る者に応じて緑ないし赤色をしているのである。

 この俳優の有名なドラマ・シーンに、走ってくるダンプカーの前にとび出しても、車がぴたり止まってくれて大丈夫というのがあったが、これもやはり鉄矢氏=信号機と考えると腑に落ちる。


 武田鉄矢は、「幸福の黄色いハンカチ」の仕事が決まった直後に、そのことが決め手で、「赤いきつね」の仕事も決まったそうだ。
 すぐに「緑のたぬき」も発売され、若いころから、信号の3色はきっちりそろっていたのだ。

 そして、「40年」をへた今回の水戸黄門でも、マルちゃんCMで黄門様として、赤いきつねの格さんと、緑のたぬきの助さんを両側に従えていた(自らの服はちゃんと黄色だった)。
 これを、ライフワークと呼ばずして、何と呼ぼう。

 私は、番組中のマルちゃんCMを見るたび、ドラマ「水戸黄門」はけっして視聴者の緑と赤を忘れるべきでないと、くり返し思ったのであった。
 そういうわけで、この文を書きましたとまで言うと、嘘になるが。

 元気なこの俳優さんも、いつかは亡くなると思うけれど、そのときは黄色い服を着せてあげ(あるいは顔に黄色いハンカチ)、左右に赤いきつねと緑のたぬきを置いて、最後のお別れをするべきだと私は感じる。

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