しかし問題は、以上のようなことなどぜんぶ重々承知であっても、実際にイスの上で良い姿勢を保ちつづけるのは、筋肉的にしんどいということだ。
逆にいえば、いわゆる「良い」姿勢を、その辺少しも無理なく続けられる何かがあればたいへん重宝するということである。
もう一つ――複雑な曲線をもついわゆる「エルゴノミクス」イスなど、さまざまな形状のイスにふれればふれるほど、感じるようになったことがある。
こうした椅子道(?)の追究では、「この形こそベストだ」という、究極のイス形状が目標とされているように見える。あたかも科学者が唯一絶対の真理を追究するみたいに。
しかし、長い時間、ラクに座りつづけるという要請の答は、そうした決定版の1形状ではなく、むしろ(変な言い方だが)「動的」な方法に潜んでいるのではないだろうか?
ある意味では正反対ともいえるような体の支え方を、自由にチェンジしながら時間を過ごす――そうした過ごし方が最もラクだというのが私の体験的結論なのである。
これは、あれこれ理由を書くより、実際に試していただくのが一番だと思う。
もちろん、工夫された形状をもち、背もたれに身をゆだねたとき何ともいえぬ心地よさを与えてくれるイスはすばらしい。
ただ、パソコン作業にせよ、机での読み/書き作業にせよ、それをしている時間のほとんどは背もたれに深くもたれかからず、体を起こしているのがふつうである。そうでないと、かえって作業がしづらい。
受付係が、背もたれにふんぞり返って人を待っていたら怒られるだろう。
体を起こした姿勢は、それがラクか否かとは別の意味でも、長く続けることが求められるものといえる。
そこで、先ほど書いた、ふだんしばしばゴミ箱に捨てている廃品で作る小物という話なのである。
この物体はいったい、どのような意味、効果をなすのか?――もし今、背もたれのあるイスがお近くにあれば(あるいはすでにそれに座っていたなら)、ちょっと次のようなことを試していただきたい。
まず、イスに背もたれの位置まで深く腰かける。背もたれが垂直に近い場合は、後ろに少し隙間を開けたほうがいいかもしれない。
次に、左右の手でコブシを作る。そして、各々後ろへまわして、人差し指側を腰骨に、小指側を背もたれに当てるようにして(すなわちコブシを横に寝かして)、体の後ろに挟む。
腰骨がいちばん出っ張っているあたりである。
コブシがそこまで届きにくい場合は、似たような大きさの何かを挟んでいただきたい。
深く座った状態で、腰のこの部分が後ろからしっかりプッシュされると、苦労なく、からだが自然に直立することに気づかれるだろう。猫背も自然に正されてしまう。
逆に、そこからコブシを取り去って、そのまま同じ姿勢を維持しようとすると、これが腰にとってかなり無理な要求であることもよくわかる。
このコブシに代わる、よりいろいろ長所をもった物体を一つ作ろうという話なのである。
たとえば、車のシートなどでは、背もたれの腰位置あたりが、レバー操作で前にせり出すようになっているものがよくある。
座っているとき、この場所を後ろから押されると気持ちがいいというのは、万人共通なのだ(たとえ原始人だって、イス座りを強いられたら、きっとこうされたいだろう)。
自宅なら別だが、座るイスを自分で選択できることはまれだから、こうした「支え」は、腰とイスの間にぽんと挟める物体のほうがいい。
そのほうが寸法も好きにできるし、実際に使ってみると、指でちょいとつまんで外したり、また戻したりというチェンジの容易さが、けっこう重要なのである。
こうした支えがあればラクに上半身が直立するけれど、それでも時々はそれを外して、腰や背を丸めた「崩れた」姿勢もとりたくなる。
対照的な座り方を、あたかも呼吸をくり返すように、からだの欲求に応じて切り替えながら過ごすと、姿勢に関してストレスが溜まらないのだ。
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