長いイス座りに腰が痛む方に
(2013/10)
立ちっぱなしの仕事というのはつらいが、ずっとイスに座りつづけることもまた、しんどいものである。
「こしかけ」が、長居に向いた場所ではないというのは、この言葉の一つの意味にさえなっている。
イス作業による腰のつかれや痛みは、原始人なぞけっして味わうことのなかった、非常に文明的な不快感だといえよう。
デスクワークにたずさわる人、乗りものを長時間運転する人、受付などに長く座らねばならない人、あるいはコンピュータ・ゲームにハマっている人(これが一番先端的な例だろうか?)……程度の差はあれ、多くの人がこの不快感に苛まれている。
長時間座ることが避けがたいとしたら、からだが最もラクなイスとは、いったいどのようなものなのだろうか? このことを考えたり、さまざまなイスを実際に試したりした時間が、人生に占める割合をもし算出できたなら、私は尋常でない数値をもっていると思う。
そうした試行錯誤の末たどりついた、自分なりのベスト・メソッドをちょっと書いてみたい。
個人的には、これでひとまず、解決を得たように感じている。同じような悩みをかかえる方には、役立つ可能性があるのではないか。
なお、念のため前もって書いておけば、この下の話の最後に、すばらしい新型イスの通信販売のお知らせが待っているといったことはありません。
ある物的な対策の話は出てくるのだが、それはふだんしばしばゴミ箱に捨てている廃物を使って、簡単に作れてしまうようなモノなのだ。
数時間、あるいは十数時間、ずっとイスの上で過ごさねばならないとき、からだが最もラクな座り方は何か?――この問いにきっぱり、しかも説得力をもって答えた言葉で、印象に残っているものがある。
それは広大な北米大陸を、来る日も来る日も長距離バスで移動し続けたという、ある人が書いていた結論である。
その人は、さまざまな姿勢や、リクライニング角度を試し、そのほか、毛布やマクラを背や足の下に挟むとか、考えうることをみんなやってみた。なにしろ試す時間も、必要性も、すごくあったためである。
そうした試みの末、最終的にたどりついた結論は、本人にも思いがけないもので、からだをまっすぐ立てて過ごすのが、いちばんラクだというものだったという。
先ほど書いた、私自身の結論はこれとは少々ちがっている。しかし、この話はとても示唆に富んでいると思う。
人の上半身のような、上端が重い棒状のものは、傾けず、まっすぐ立てるのが一番すっきりしていよう。
それを斜めに傾けるから、腰に不自然な向きの力がかかったり、ずり落ちに抗してお尻の皮が痛くなったりする。
また、目が疲れやすいと敏感に感じてしまうことだが、本を読んだり、ディスプレイ画面を見たりするとき、からだが好むだらしない姿勢(寝っ転がりを含む)というのは、目にはたいへん負担のかかる姿勢である。
逆に、目にとって一番ラクなのは、体をまっすぐにしたいわゆる良い姿勢だ。
子供のころ、親や先生に「座っているとき姿勢を良くしなさい」と注意されると、何となく「人から行儀よく見えるようにしなさい」に聞こえ、従う意欲があんまり湧かないのだが、時をへて、目が悪くなり目と姿勢の関係に敏感になってくると、あれは単に外観の問題ではなかったのだなとようやくわかったりする。
ずり落ちぎみに腰を前へ出したり、背を丸めたりといったいわゆる悪い姿勢は、骨盤や背骨をじわじわゆがませるものでもある。
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