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 「便所の百ワット」ということばがある。トイレに百ワット電球なんか付けてもムダであることから、それが求められていない場でも、やたら明るい人を指すことばだ。

 もう30年くらい前になろうが、タモリが所ジョージを評して使ったものだったと記憶する。
 使われたときの、世間のリアクションから見て、すでに有ることばでなくタモリの造語だったと思う。

 私の説とは、これと同様、大石内蔵助のあだ名「昼あんどん」は、「無価値な存在」といった意味ではなく、実は「必要とされていないときまで異常に明るいご家老」を意味していたというものなのだ。

 自らのお殿様が切腹を命じられ、お家おとりつぶしとなれば、ふつう、家臣はみな落ちこむ。
 ところが赤穂藩には、どんなときも明るく、エネルギー余りまくりのご家老がいた。
 浪人となった後の生活困窮にあっても、毎日ものすごく元気。

 そして、「皆のもの、世間をあっといわせようぞ」と家来を扇動し、多くの者がその異常なエネルギーに引きずられ、台風みたいになって吉良邸へ討ち入りをした。これが歴史上、類をみない集団あだ討ちが成功してしまった原因なのではないか。

 「役立たず」「ぼんやり者」の家老だった大石内蔵助が、お家おとりつぶしの後、とつぜん優れた集団リーダーへ変貌したと考えるより、これは「原因→結果」にずっと整合性があると思うのだがどうだろう。

 忠臣蔵に関しては、ほかにもいくつか脳裏をよぎる仮説があり、それはたとえば、討ち入りをした赤穂の武士47人、すなわちAKB(赤穂武士)47は、三百年後のAKB48の誕生に影響を与えているといったものなのだが、説の開陳が長くなるから割愛しよう。

 忠義を非常に重んじる日本人の心は、数百年程度では変わらないはずだ。将来、もし秋元康先生がお上に不当逮捕されるなんてことが起きたら、AKB48は当局に討ち入りをしてほしい。
(ちなみに、かの吉良邸があった両国と秋葉原とは、JR総武線で駅二つという近さである)


 さて、今回のこのお話もまた、昼あんどんのような文章の連なりから、最後はがらり、恐い顔へ変貌してしめくくることにしたい。
 下に記すのは、「忠臣蔵」と「水戸黄門」と「必殺仕置人」が、どろどろ混じりあっているような実話である。


 浅野のお殿様が、江戸城の本丸内で斬りつけ事件を起こしたのは、天皇の使者を将軍が迎えるという、重要な行事のさなかであった。
 使者をもてなすために、将軍・綱吉(おなじみの犬公方)が、能の催しをした翌日に浅野事件は起きた。

 この事件の7年前に、これとちょっと似た事件を起こした、別の人物がいる。かの水戸光圀である。

 光圀は、隠居したあと、将軍・綱吉から呼びよせられ、江戸の小石川に住んだ。そして事件は起きる。この人、67歳のときだ。

 光圀は、自分の屋敷に諸大名などを招いて、能の催しを行った。
 そして、そんな重要行事のさなかに、舞台の楽屋に水戸藩の大老・藤井紋太夫を呼び出し、これを刺し殺してしまうのである。
 紋太夫は、光圀自身が長年かわいがり、とりたてた人物だ。

 このできごとは突発的なものではなかった。光圀は、あらかじめ数日前に楽屋へ行き、屏風を立てさせるなど、事を人に見られないよう工作していたという。

 そして当日、客人の前でみずから能を舞ったあと、楽屋においてこれを遂行したのである(作られたドラマのごとき展開だ)。
 現代ならぬ江戸時代の67歳といえば、そうとうな高齢だと思うが……。

 目撃者が書いた「玄桐筆記」という記録によると、光圀は自分のヒザを紋太夫の口に当て、声を出させないようにし、小刀で致命傷を負わせたが、客に気づかれぬよう血を外へ流れ出させない手際だったという。
 あたかも、「必殺~」の登場人物のようではないか。

 この事件は当時、庶民の間でも話題となり、のちに歌舞伎になったり小説になったりしている。
 水戸光圀が寛容な名君だったことを伝える話も一方ではいろいろ残っており、この事件に関しては、とりたてた相手の裏切りといった、よほど腹にすえかねることがあったのかもしれない。
 浅野の殿様の怒り同様、その真の理由はよくわかっていない。


 上の二つの事件は、先述のようにどちらも将軍・綱吉の時代に起きている(かの「生類あわれみの令」は、あまり効きめがなかったのだなあ)。

 ちなみに、光圀は3代将軍・家光と同じく、かの徳川家康の孫であり、家光の子が綱吉という関係。

 そこで質問を一つ。
 浅野の殿様の事件のことを、はたして光圀は耳にしたであろうか、しなかったであろうか?

 答は、「僅かな差で、知りえなかった」である。
 光圀が世を去ったほんの3ヶ月後に、吉良斬りつけ事件は起きている(1701年の1月と4月)。

 「水戸黄門」と「忠臣蔵」は、そうしたわけで、互いにごく近い時代を背景にしたお話なのである。

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