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 第一作ではダークで恐かったゴジラが、ついにはスクリーンで「シェー」をしておどけるようになってから2作あと、観客として子供が想定され出したころに登場したミニラは、この「分身手法」を、なんと怪獣にまで適用したものだろう。

 しかし、子供にまったく受けなかった。

 ゴジラの子供を登場させるというアイデア自体は、良かったと思うのだ。しかし、大人映画から子供映画への移行期だったせいか、ミニラのキャラクターを、二兎を追って設定したのがまずかった。

 ゴジラをそのまま小型化し、子供怪獣ながらりりしく、敵との戦いでそれなりに活躍させれば、観客の子供が感情移入できたはずだ(当時の子供としての意見)。

 しかし、制作者はこの怪獣に、大人の価値目線で、「子供のかわいさ」を足そうとしたのだと思う。それゆえ、ミニラはあんなトボけたまぬけ顔になった。やることなすこと、危なっかしく失敗だらけになった。

 だいぶ時がたってから、私はミニラが動いているシーンを何かのテレビ番組で見て、「けっこうかわいいじゃないか」と思った。人が「大人になる」というのは、「ミニラがかわいくなる」ということなのだ。

 しかし、世のなかに子供ほど、子供のかわいさに価値を感じない人間があろうか? どの子供が、あんなおとっつぁん顔を、自分の分身と考えたいだろうか?

 他方、物語的には、このころのゴジラはもう大人が単独で見に行くような作品ではなくなっていた。

 「西洋人の子供」とはちがい、ミニラは一石二鳥でなく一石ゼロ鳥になってしまったのだ。
 ミニラは、ゴジラの息子であるとともに、レイモンド・バーの一番の不肖息子といえよう。

 時は流れ、子供のころミニラを観ていた世代が映画監督になって、「平成ゴジラシリーズ」を作った。
 そこに登場する「幼少ゴジラ」は、ゴジラをそのまま縮小したような、おとっつぁんでない顔にされたようだ。
 幼少ゴジラの外見の前例が、すでに東宝にあるというのに……。

 やはりみんな、ミニラって当時すごく嫌だったんだなあということが、時をへてわかって可笑しい。

国際スター・ゴジラが足を向けて寝られない恩人

 そろそろまとめると――。

 「怪獣王ゴジラ」は、いま(2014年)現在、日本ではほとんど知られておらず、かつ知っている人によってバカにされている(その理由も重々わかります)。

 しかし、この映画は、世界50ヶ国にゴジラを知らしめたのみならず、日本で元のゴジラ第一作のステータスを高め、もしかしたら「ジュラシック・パーク」を生み、米国議員さえ動かしたパワーレンジャーの日米黄金図式も先取りしていて、かの「分身手法」ではゴジラシリーズどころかライバル大映のガメラシリーズにまで恩恵をもたらし、ついでにミニラも生んだかもしれないという、実はとてつもない映画なのだ。

 ガメラを助けたことはやや腹立たしいかもしれないが、ゴジラにとって、この映画の制作陣はとうてい足を向けて寝られない存在といえよう。

 もちろん、今回の米版ゴジラの制作者たちもそうした存在だ。

 2014ゴジラが週末興収No. 1を獲ったのは、正確に表現すると61の「国・地域」だそうである。
 国の数でいえば、これは「怪獣王ゴジラ」の世界50ヶ国にけっこう近いのではないか。この60年の間に、世界では国がかなり分裂して数がふえたのだし――。

 皮肉なことに、反・核兵器メッセージを明確にした2014ゴジラがいま世界中で観られている、その土台を作ったのは、反・核兵器メッセージの削除で非難されている「怪獣王ゴジラ」なのであった。年の離れた兄が、弟を助けたようなものだ。
 これも、上に書いたことに付け加えておいたほうがいいだろう。

 ゴジラ第一作にはまた、「原子怪獣現わる」という親が米国にいたことも、忘れることはできない。ゴジラがこれほど米国で人気なのは、こうした深い血縁関係ゆえかもしれない。

 ゴジラも、国内だけなら、東宝さんの方角だけ気をつければ割と気楽に横になることができたが、恩人が地球の裏にいるとなるとたいへんだ。丸い地球で、足先の方向をツツッと延長していくと、米国や英国に至りかねない。

 立って寝ても米国は下方だし、逆立ちしても天国にはバーさんがいよう。「国際スターはつらいよ」であろうか。

 (ゴジラ映画の本数は、いつか寅さん映画の48本に追いつくだろうか? 寅さん=渥美清は亡くなってしまったけれど、ゴジラは60周年作品ですら元気ハツラツだから(あたりまえだ)、可能性はあろう。
 東宝シリーズの28本に加え、仮に「怪獣王ゴジラ」と「Godzilla 1985」をそれぞれ0.5本とカウントし、2014年ハリウッド版も計算に含め、ジラを除くと、いま30本である。ジラは別の領域でカウントしてもらいなさい)

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