(やがて宇宙船から、音声の自動翻訳機を完成させたという連絡が来る。デジタル通信も、理解し始めた模様。やたら学習の速い火星人)
街の人A 突然、宇宙船が来ちゃったときはどうなることかと思ったけど、敵対的な侵略者じゃなくて、よかったよな。
街の人B まあ、我々だって、やっとこさ宇宙へ出ていって、自分ら以外に生命体がいることが知れたら、さあ攻撃しようとは思わないよな。
まずは他に生き物がいたことに感動して、もしかしたら交流できないかなと考えるだろ。
(火星人から、さらなる連絡が来る)
「あなたたちの反応を、テレビ放送をキャッチして見たのですが、不安を感じている人はいても、こちらに敵対的な気持ちを持っている人はいないようです。地上で、直接会うことにしましょう。
私たちの背たけは、みなさんの半分くらいですが、さほどの違いではありません。我々の環境適応力は大きいので、地球の大気なら、特殊な衣服をつけなくても、肉体のまま出て行けます。
この建物の近くに、円盤の着陸にぴったりな、丸くて平らな場所がありますが、あそこに降りていいですか? 大きな字で、ヤンキー・スタジアムと書いてあるとこです。
よければ、明日のお昼ごろにでも降りようかと思います。お返事待ってます。かしこ。」
(スタジアムは、翌日デーゲームを予定していたが、異星人が初めて降り立つ場所になるとは、これほど名誉なことはないと、「火星人が降る」ためゲームを延期して、大歓迎となる。
世界中のテレビ局が、歴史的瞬間を生中継することを決定する)
(いよいよ当日、正午がやってくる。スタジアムの客席をぎっしり埋め、ウェーブをしながら待つ人々。
ニューヨークフィルが、ドボルザークの「新世界より」を演奏している)
(夜遅く、日本でテレビを見つめる、くだんの家族)
父 (リモコンでチャンネルを変えながら)やっぱり今度も、教育テレビまでこの中継やってるな。
こんな歴史的瞬間を無視して、英会話の勉強しようとするやつ、いないもんな。よほどの火星ぎらいなら別だが。
娘 火星に悪い思い出がある人なんて、めったにいないわよ。
父 そりゃそうだが。
それにしても、円盤、来ないなあ。もうそろそろ予定の時間になっちゃうぞ。
……うわっ、そう言ったとたん、突然出現しちゃったよ。
娘 今ぜんぜん、音しなかったよね。
母 あの円盤、野球場に比べたら、案外小さいのね。
ああ、降りてる降りてる。
着陸……したのかな。
父 したみたいだな。もしかしたら、わずかに浮いてるのかもしれんけど。
それにしても、雪男と雪女は、せっかく街に出てきたのに、結局あまり注目されないまま、雪山へ帰って行ったなあ。気の毒に。
娘 やってきたのが、火星からと、雪山からじゃ、そりゃあ与えるインパクトが大人と子供よ。
父 おまえ、その言い方は、大人になってからにしなさい。
母 いいじゃないの。だれだって、ある言葉を、言いたくてしかたない時期ってのがあんのよ。
あんただって、「何々と言えばウソになる」って言葉にハマって、そればっか言ってた時期あったじゃないの。
父 変なこと思い出すなよ。子供がそんなふうに言ったら、おかしいっていうだけで……。
母 大人が、「大人と子供だ!」って言うほうが、自分はすごいんだぞって、えばってる感じじゃないの。子供が言うぶんには、むしろ日本人らしい謙遜の姿勢でしょ。
娘 どうでもいいわよそんなこと! こんな瞬間に子供みたいなケンカしないでよ。
母 あっ、円盤の横っちょが開いて、ゲートウェイみたいなのが出てきた!
父 ぞろぞろと、何か出てきたぞ!
(現れた火星人の姿を見て、世界中で驚愕の声があがる。
とりわけ、その驚きの声は日本列島で大きく――)
父 うわあ、あの姿――。
タ、タコ……というか……むしろ……いわゆる……。
タコちゃんウインナーそっくりだあ!
母 似ているというより、そのまんまじゃない! 大きさを別にすれば。
昔の人が描いた火星人の姿って、半分くらいは合ってたのね。かつて、どこかで接触があったのかしら。
(背たけが少しずつ違う、タコちゃんウインナー(に似た火星人)が、十体ほど現れる。
しゅるしゅる、足を小刻みに動かしてすべるように歩く。「地火友好」というハチマキを、みな巻いている)
父 あのハチマキがまた、絶妙だよなあ。単なる偶然かなあ。
娘 もしかしたら、神様って、いるのかも。
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