既知との遭遇
(日曜の朝。居間でくつろぎ、新聞を読んでいるお父さん。最後に社会面をばさっと開く。大きな字が目にとび込んでくる)
日本アルプスで雪男発見! 発見者は雪女
自分は発見しやすい立場にあったと思いますと、雪女の雪子さん
来月、二人で赤坂のホテルでディナーショー
オープニング曲は雪山賛歌か?
父 世の中、いろんなことが起きるなあ。私は、渋谷でヤマンバの集団を目にしてから、もう、何を見ても驚かなくなったが――。
(階段をどたどたと駆け下りる音。娘が居間にとび込んでくる)
娘 お父さん、たいへんたいへん! テレビ見た? (ついてないテレビに目をやる) とんでもないことが起きてるよ!
父 何だ今度は? 新しくできた豊洲市場に人魚でも並んだか?
娘 そんなローカルな話じゃないのよ。こっちもテレビつけてよ。
(リモコンを手に取って急いで押す。画面に、大きな円盤状の明るいものが浮かび上がる)
娘 どのチャンネルも緊急でこれやってんだけど、ニューヨークの国連本部の上空に、いまでっかい円盤が浮かんでるんだって!
(リモコンでチャンネルを次々に変える。すべての局が円盤の映像。あまりの事件に、NHKの教育放送までが円盤を映している)
父 これって……もちろん、映画かなんかじゃないんだよな?
娘 あたりまえじゃない。映画映して、みんながこんな大騒ぎしてるわけないでしょ。
来ちゃったのよ。こんなのが、宇宙から急に来ちゃったのよ!
父 たしかにこんなの見たら、来ちゃったという言葉しか出てこないな。
それにしても、めちゃくちゃ明るく光ってるな。まわりが真っ暗だけど、これって、いまの様子なのか?
娘 そうよ。あっちはいま夜なのよ。
地上のビルの明かりも、下の方でこうやってチラチラしてるけど、円盤の明るさに比べたらまるで大人と子供よ。
父 大人と子供よって、子供が言うなよ。
それにしても、本物のUFOが、あっさり出現かあ……。このあといったいどうなっちゃうんだ? 地球の裏側にいるったって、こんな円盤にしてみたらアメリカでも日本でも、鼻の先だろうし。
うーん。突然、こんな大事件が起きると、かえってくだらないことが頭をよぎってしまうが――もしかしたら雪男のディナーショー、無くなるかもしれないな。
(国連本部の上に浮かび続ける物体。夜ではあるがサングラスをかけ、不安そうにそれを見上げる大勢の人々。
円盤がずっと静止したまま、時間がたっていく。
やがて夜が明けたころ、国連本部に奇妙なメッセージが届く)
職員A き、き、きましたあー。メッセージが!
いま、騒ぎでずっと放っといたFAXの出力を取りに行ったんですけど、そのなかに1枚、上空のやつからのメッセージが混じってたんです。
上司 ええっ、宇宙船がFAXで連絡してきたのかよ?
だれかのイタズラだろそりゃ。
職員A もちろんそうかもしれませんけど、何だかすごく奇妙なまちがい方をしてる英語で、初めまして、あなたの上空にいる者です云々と書いてあるんです。
この文章で意味が通じたなら、とりあえず返信してくれと。
上司 (紙を手に取って目を通す)
うーむ。たしかに、思いもよらない言葉のまちがい方をしてるとこが、何だか不気味だな。機械翻訳のランダムさとも、また感じが違うし。
職員A そう、そうなんですよ。
上司 ふだんなら、即座にごみ箱行きだけども――。
そうだ、確かめてやろう。一応ていねいに、内容はわかりましたと前置きして、宇宙船が明るすぎてみんな眠れなくて困ってるから、ライトを消してくれませんかと返信してみろ。
もし本物なら、あれに変化が起きるはずだ。
職員A なるほど、そうしましょう。出どころを確認したりするより手っとり早いや。
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