(職員が返信のFAXを送る。送信完了メッセージが出る。
5分ほどして、宇宙船の光が突然消える)
職員A、上司 うわあ、本物だあ! (二人で腰を抜かす)
職員A 私、円盤が出現したときよりも、いまのほうが気絶しそうになりましたよ。
上司 えらいファースト・コンタクトの仕方してくるなあ。前代未聞だろこんなの……って、前代がないわけだが――。(気味悪げに、来たFAXをもう一度手に取る)
(国連本部内で話があっという間に伝わり、FAX機のまわりに黒山の人だかりができる。宇宙船からの連絡を、皆が今か今かと待ち続ける。
しかし、次のメッセージがなかなか来ない。こちらから追伸を送っても、返事がない。
最初のメッセージからまる1日たって、ようやく第二のメッセージがFAX機を揺らす)
職員A ああっ! これはきっと宇宙船からですよ。最初のとこが前のとそっくりだ。
上司 今度は内容が数枚あるようだな。
紙、全部出たか?
よし、君、それ大声で読んでみろ。
職員A わかりました。
(集まってきた大勢の人の視線が集まり、緊張する)
職員A ええとまず、地球のみなさん、あらためてこんにちは――と。
(思わずそれに応え、「こんにちは」と口に出す職員が数人)
職員A 私たちは、火星から来ました――と書いてあります。
職員B 火星?
職員C そんな近いとこからの宇宙船なんだ。
職員A あなた方の探査機が、最近こちらにやってきましたね。ここまで文明が発展しているなら、ちょっと交流してみようかと思って今回やってきたのです。私たちは主に火星の内部で暮らしているため、探査では、存在に気づかなかったかもしれませんが――。
あれっ、英語がすごくまともになってるなぁ。あっという間に進歩しちゃったみたいだ。
(ざわざわ)
上司 火星人、恐るべし。
(その他、友好のメッセージや、もう少し情報交換したら直に交流したいといった言葉が続く)
職員A ええと、最後に、追伸のコメントがついてます――。
私たち火星の者はデジタルと無縁なため、こうしたやり方でコンタクトすることになってすいません、受け取ったメッセージはすぐ読めるのですが、メッセージを書くのにたいへん苦労しています、と。
以上です。
(ざわざわ)
職員B 人間同士の連絡は電子メールでやってて、火星人との連絡はFAXかあ。
職員C まだデジタル化もしていない生物が、あっさり地球まで飛んで来ちゃうとはねえ。
職員D デジタルとは縁がない……。もしかして、デジタルって元来の、指の意味で言ってるんじゃないかしら。
職員C ああ、指を持っていない生き物か――。そりゃありえるけど。
それにしても、今どきFAXだって、送ってる信号はアナログじゃないんだから、実際は彼らもデジタル信号を送信してるわけだろ。
職員D もしかしたら、タイプライターとFAX機をどこかで入手して、私らみたいに紙を差し込んで送信してるんじゃないの?
職員C 送信は機械まかせか――。
でも、もし指のない生物だったら、とてもタイプライターなんか打てないぞ。
職員B いや待て。ほんとにそうなのかもしれんぞ。上空に来てから、宇宙船がただ浮いてるだけの、不気味な沈黙が長く続いただろ。
あれは、細い棒か何かで、苦労してタイプのキーを一つ一つ押してたから、最初の連絡まで何時間もかかったんじゃないのか?
職員C そうか……。
ということは、2度目のメッセージが来るまで、まる1日もかかったのは――
職員BとD 2度目は文章が長かったから!
(声がそろってしまい、顔を見合わせて笑う)
職員C タイプライターは、途中で打ちまちがえたりしたら最初からやり直しだしな。のんきに浮かんでるように見えて、上じゃずっと、神経をすり減らしながら作業してたのかもしれん。
職員D これはあのメッセージや、今までの宇宙船の長い沈黙の、一つの説明にはなるわね。地上と、ラインがどう接続されてるのかは謎だけども。
上司 (うちの職員もなかなか推理力あるなあ。感心、感心)
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