(ロボットが消えてしまった家から、近辺で聞き取りを始め、かのコンビニまでたどりつく)
社員 ええっ! あのロボットが、人間にハタキをかけたんですか?
店員B そうだよ。さんざん顔面をやられてさあ。そいでつまずいて転んだら、ホウキで、オレをチリトリに掃き入れようとするんだよ。
あいつにもうちょっと力があったら、たぶんオレ、店のあのゴミ箱へ押しこまれてたぞ。あいつが持って来たゴミみたいに。
オレはこのコンビニのもんだから、あそこへ入れてもいいってかぁ? よくねえよ!
社員 まことに申し訳ございません。ロボットを回収しましたら、また改めておわびにうかがいますので、ひとまず失礼いたします。
……
おかしいなあ、けっして生体には向かわないはずなんだが。
屋内使用を想定した設計になってるから、強い日射に何時間もさらされて、どこかおかしくなっちゃったのかもしれないな。
(汗をふきふき、さらにロボットの足取りを追う。
ルン坊が道ばたでルンバを踊っている様子を、携帯で動画撮影した商店主がいて、見せてもらう)
社員 ありゃ。踊ってるルンバが、社交ダンスの優雅なやつじゃなくて、打楽器で踊る荒々しいキューバ・ルンバになってるぞ。やっぱり、灼熱の太陽にさらされた影響なんだろか?
ロボットのくせに、野に放たれたら動物みたいに先祖返りするとは……。
こりゃあ、もはや人畜無害なルン坊じゃない。ルン暴だぁ。
(場所が市街地で、目撃者が大勢いるため、足取りは容易にたどれていく)
A オレ、ここでずっとチラシ配ってたんだけど、後ろからホウキで足ばらいをくらってねえ。
落としたチラシを、あっという間に掃き集めちゃって――いったい、何用のロボットだい、ありゃあ?
B あの公園の芝生で、10分くらい、チリトリ持って犬と戦ってたわよ。犬も何だか、こわごわ吠えてたわね。
C あそこのゴミ置き場で、ゴミを出す曜日を表示で確認しながら、袋を捨ててるのを見ましたよ……。
社員 かなり暴れてるが、理性も残ってるようだな。ふつうの機械ならバッテリーが切れて自然に止まるけど、あいつは自分で充電するからタチが悪いよ。ケガした人がまだ無いようなのが救いだ。
(少し前にロボットが店から出ていったという、駅前のファーストフード店にたどり着く)
店員 入口のゆかをこまめに掃きながら、店のなかへ入ってきましてね。2時間くらい前だったかな?
それからずっと、あの電源席に座りこんで充電してたんです。外から、席のコンセントが見えたんですかねえ。
社員 それじゃ、2時間近くもそのまま座らせていたんですか。後ろから取り押さえてもらえたらなあ。
店員 ホウキやハタキとはいえ、棒を持ってるし、やっぱ恐いじゃないですか。
充電している間、きょろきょろして、まわりのお客さんにガンを飛ばしまくってたし。
社員 そのへんの機能は、まだ働いてるのか……。それにしては、平気で人間をハタキやがって。
(会社から携帯に電話が入る)
社員 はい、もしもし。
上司 ああ、ルン坊の件だけども。
先ほど、そちらへ応援を一人送ったんだが、トラブルが起きた家の、最寄り駅まで着いたとこで連絡してきてな。
社員 そうですか。私もちょうど駅前まで追ってきたとこなんで、合流しますよ。
上司 それがな、その社員の話によると、つい5分くらい前に、ロボットが改札を通って駅へ入るとこを、駅員が見たらしいんだ。
ルン坊のやつ、電車で移動するつもりかもしれん。
社員 ええっ、駅の中? どうして改札を通れたんですか?
上司 私もよくわからんが――集めたゴミのなかに、残額がある鉄道カードか、現金があったんじゃないか。
社員 くそお、高度な人工知能が付いてるとロクなことにならんな。
上司 とにかく、君もすぐ駅に入ってくれ。まだ電車には乗ってないかもしれんから。
社員 わかりました。すぐ行きます。
最初へ 1 2 3 4
次頁へ