Site title 1

 でもそんな機能まで付いてるんじゃ、お値段もすごいんでしょ?
店員 もちろん、けっして安くはないですけど、日々のお掃除からずっと解放されることを考えれば、とってもお得だと思いますよ。
 いま、特別試用キャンペーンをやってましてね。無料で2週間、ご自宅でルン坊を試していただけるんです。あとで感想をレポートしてもらえれば、ご購入にならなくてもいいんですよ。
 そうですか――おもしろそうだから、ちょっと使ってみようか?
 そうね、ほんとにダンスのルンバの参考にもなるかもしれないし。
店員 ありがとうございます。それでは、あちらのデスクで手続きを……。
 あ、ひとつ大切な御注意があるんですが、このルン坊を動かしてるときは、家の窓はすべて閉じておいてくださいね。
 生体は識別できますけど、家の内部・外部という識別はできないんで、外へ出て街のお掃除を始めちゃいますから。
 そりゃたいへんだ。
店員 まあ、これが人に危害を加えることはないので、事故や問題が起きる心配はないですが、高価な品物なので、紛失防止ということで。
 わかりました。窓を閉めて使うようにします。

(試用の申し込みをする客)

(数日後、ルン坊が宅配便で家にやってくる。
 段ボール箱の外側に、ハタキとホウキを持ってポーズを決めたルン坊の絵が描いてある。それをケゲンな顔で運びこむ宅配業者)。

 (箱を開けて) ああ、掃除用具一式も付属してるんだ。今どき、ふつうの家にハタキなんかないもんな。
 どうせならこいつ、こんな道具じゃなくて、掃除機を持てるようにすりゃいいのに。
 コードの付いた掃除機なんか引いてたら、ルンバを踊りにくいんじゃないの?
 いくらルン坊ったって、ダンスがメインなのは本末転倒だろ。
 ええと、これがさるぐつわか……。

(胸のところにある電源スイッチを押すと、ロボットがガタガタ動き出し、自力で立ち上がる。
 家のなかをぐるり見回し、コンセントを見つけ、走り寄ってしゃがんで充電を始める。
 時々ちらちら、二人のほうに目をやる)

 「あいつら、生体だぞ」と思ってるんだよ。
 この坊や、仕事に備えてるつもりなんだろか、楽しいダンスに備えてるつもりなんだろか?

(実際に掃除を始めると、物の扱いがていねいで手ぎわがよく、ダンス姿も美しいので、すっかり気に入る二人。
 しかし、連日動かしているうち、次第に気のゆるみが……。
 試用期間も終わりに近づいた、ある天気のよい日の朝)

 (ルン坊を1階で使いつつ、2階でくつろいでいたが、ハッとして立ち上がる)
 しまった、換気で窓開けたまま、ロボット動かしちゃった!

(あわてて階段をかけ下りる。どの部屋にも、ロボットの姿がない。
 まさかと思いつつトイレも大きくノックしてみるが、そこにもいない。
 家の周りを探しても姿が見えず、ぼうぜんとする)

 わぁ、遠くへ行っちゃったみたいだ。どうしよう!
(急いで取説で電話番号を調べて、メーカーに連絡する)

(それから4時間後。ロボットが消えた家から、1キロほど離れた所にあるコンビニ)

店員A あれ、外で変なやつが、うちのゴミ箱にゴミを捨ててるぞ。
店員B あ、ほんとだ。大きなビニール袋で捨ててやがる。

(自動ドアを開けて外へ出る)

店員B おい、おまえ。うちで買ったんじゃないゴミを勝手に捨てるな! 家まで持ち帰れ。
ルン坊 お掃除するぞぉ!

(店員に近づき、顔にハタキをかけまくる)

店員B うわ、何だこいつは! この真っ赤なハタキは何ごとだ?(逃げようとして、つまずいてひっくり返る)
ルン坊 お掃除するぞぉ!(パタパタ)
店員B ぐええ! げほげほ。

(ロボットが行方不明になった知らせを受け、現場に駆けつけたルン坊メーカーの社員)

社員 まったく、技術の連中はおもしろがってあんなの開発するけど、物損事故なんかが起きたら、頭下げて回るのはみんな俺たちなんだからなぁ。
 ぜったい外へ出ないやつ開発してから、売り出せばいいのに。

最初へ 1  3 4  次頁へ