(監督が練習場にやってくる)
監督 君たち、まったくのイーブンの対戦じゃ、やはりちょっと無理があるから、ゴジラと協議して、あちらにハンディキャップを負わすことを認めさせたぞ。
選手B どんなハンディキャップです?
選手C こっちのフォワードに、キングギドラを入れるとか?
選手B そりゃいいや。空が飛べて、頭が三つもあったら、ゴール前のヘディングなんか無敵だ。
監督 そんなの加えたら、人間と怪獣の戦いにならんだろうが!
ハンディの設定は二つあってな。まず一つめは、ゴジラが口から熱線を吐いたらファールになるが、人が熱線吐いてもファールにならないというものだ。
選手たち ……。
選手A 許されても、うちの誰が熱線を吐けるんだよ。
選手B せいぜい熱い吐息くらいだ。何の武器にもならねえ。
選手A もしゴジラがうっかり熱線を吐いて、ファールした場合は、どうなるんですか?
監督 ただちに人間側にフリーキックが与えられる。
選手B ふつうのファウル扱いかよ!
選手C それじゃ、ゴールされそうな場面では、ゴジラは迷わず熱線吐いてくるぞ。
選手A せめてレッドカードくらい出さなきゃ、ピッチから消えていく選手のバランスがとれねえ。
監督 ゴジラ側は、そんなルールがなくてもけっして吐きませんと言ってるが、野生動物のことだから、感情が高まってくると、思わず吐いてしまうこともあるかもなあ。心の準備だけはしておけ。
選手A オレ、耐火服着て、安全靴はいて試合出よ。
選手B 安全靴って、足先を保護するやつだろ?
ゴジラに足だけ踏まれることって、あるのかな?
監督 二つめのハンディキャップだけども、むしろこっちが戦術的な意味で大きいぞ。
ゴジラは、尻尾が手以上に便利に使えるから、手だけじゃなく、尻尾もボールにさわっちゃいけないというルールにしたんだ。すなわち、「ハンド」に加えて、「テイル」という反則が加わる。
人間の選手はどんな動きをしたって、この反則にひっかかる心配はない。
選手B テイルねえ――。それのどこが、戦術的に大きいんですか?
監督 相手のペナルティーエリア内で、ゴジラの尻尾に球をぶつけて、ペナルティーキックを得ることをねらうんだ。マトがでかくて横に広がってるんだから、どんどんPKがとれるだろ。
いくら何でも、20対0なんて負け方じゃまずいから、ちょっとずるいこと考えたんだ。
選手B 尻尾にぶつけるったって、この巨大な球ですからねえ。尻尾のとこまで近づいて、ひょいとハタかれたりしたら、こっちがピンポン球みたいに飛んじゃいますよ。
選手A あの尻尾でガツンとやられたら、ダンプにハネられるくらいのケガじゃ済まねえ。
選手C そもそも、そんな位置まで、オレたち押し込めるのかよ? センターラインからだって、ゴールまで半キロもあるんだぞお。
(いよいよ試合当日がやってくる。特設の巨大競技場の客席を、ぎっしり埋めつくす観客たち。世界中から来たテレビのカメラクルーが、その前に陣取る。
客席の背後に設けられた巨大スクリーンに、歴代のゴジラ映画の戦闘シーンが映され、雰囲気を盛り上げている)
(両チームの選手入場。
人間の選手は子供の手を、ゴジラはミニラの手を引いて登場。大きな拍手)
選手C 俺たち、まずはあの11匹のミニラと試合やってもよかったんじゃないか? あれだって、大きさはこっちの十倍くらいあるんだし。(ミニラって、東宝にとって消したい黒歴史なのかと思ったら、「ファイナルウォーズ」でしっかり復活していたなあ)
選手D ふん、プロが、あんな小僧たちと試合できるかよ。
見ろよ、みんな鼻たらしてるじゃねえか。
選手C プライドより、命だろ。
選手B やっぱおまえ、安全靴はいてきたんだぁ。
選手A まあな。気休めの、お守りみたいなもんだよ。
選手B 終わったら、つま先だけ、無事だったりしてな。
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