(試合前の国歌斉唱。ゴジラ側は、伊福部昭明の「ゴジラのテーマ」が流れる。胸に手を当てて聞くゴジラ)
客A ゴジラ、あの曲気に入ってたんだ。伊福部先生も、きっと草葉の陰で喜んでるだろう。
(試合前の握手の際に、力を加減しそこなったゴジラがいて、人間側にすでに怪我人が出る。かぎられた選手交代枠を、試合前に使わざるを得なくなり、監督は渋い表情)
(盛り上がる観客席)
客B おーい、前の席のおまえ。でかすぎて、ここからゴールが見えねえぞお。
隣の客C あの客はゴジラだからしょうがないだろ。あれでもせいいっぱい、身をちぢめてんだよ。背びれだって、たたんでるじゃねえか。
(声をかけられた客が、ふり返って頭を小さく下げる)
客C それより、あそこにいるゴジラのチアガールの、一糸乱れぬダンスを見ろよ。ああいう珍しいものが見られただけで、入場料ぶんの価値はあるぞ。
客B ほんとだ。おそろいのミニスカートがまぶしいな。
(2匹のチア・ゴジラが、1匹のゴジラを投げ上げる)
客C なんと、ピラミッドまでやるのかよ。
トップのゴジラは、さすがにスリムだな。
客B まだ若くて、顔がミニラに近いから、ちょっと笑っちゃうけどな。
客C ゴジラの客は、むしろ人間のチアガールのほうに目が行ってるみたいだ。同じように珍しいんだろな。
アナウンサー いよいよ試合が始まります。
審判は人間と怪獣、双方から出ておりまして、人間の審判は、ゴジラのスピードに対応する必要があるため、スポーツカーに乗ってます。ゴジラ側は、怪獣ラドンが飛びながら審判をします。
解説 試合をする選手同士もそうですが、判定をめぐっての、審判同士のもめごとも心配ですねえ。
アナ 審判のラドンが暴れた時のペナルティも、決めといた方がよかったかもしれませんねえ。
さあ、前半のキックオフはゴジラからです。
ホイッスルと同時に、フォワードのゴジラが突進しました! 思いのほか器用に、小さな球をちょこちょこ蹴っています。
解説 ゴジラのほうは、特にフォーメーションは無いようですね。隅にいるあの3匹なんか、試合そっちのけで、まだ立ち話してるし――。
わわっ、キーパーのゴジラが、ゴールポストのとこで小便してますよ。しょうがねえなあ。
アナ ボールを運ぶゴジラに、鹿縞の選手が果敢に向かって行きます。しかし、ゴジラは相手など眼中に無いように、ひたすら球を蹴りつづけています。時には、人もいっしょに蹴とばしてます。
ついに、鹿縞のゴール前まで達したあ――。
解説 あっちは、まだ小便出てますよ。
(ゴール前に迫ったゴジラに、勇敢に向き合う人間側キーパー)
キーパー ゴールの幅が百メートルもあると、ポジショニングは一か八かだな。
(ゴジラがドリブルをやめ、ボールをゴールへ思い切りキックする)
アナ キーパー、読み良く、飛んできたボールを抱えた――。
しかし、ボールと一緒にゴール・ネットにつきささったあ!
客A あんな砲弾みたいなのが飛んできたら、当然ああなるだろ。
(負傷退場者が相つぎ、開始後10分で放棄試合となる。
短い一部始終を見ていた主催者代表が、くやしそうに席を立つ)
代表 Jリーガーがゴジラと互角に戦えるようになるには、まだまだ時間が必要なようだな。
お付き DNA操作でもして巨大化しなきゃ無理ですよ。
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