B あのタレントも、虎の穴の出なのか?
A いや、わからん。ひょっとしたら、もっと恐ろしいとこ出身なのかもしれん。
(そういえば、笑いに関して一番フリーな国イギリスの国営放送が、ビックリして取材番組作ってたなあ。番組のイギリス人リポーターが、喜んじゃってあのカッコで腰ふってたっけ。
あれはいわば、赤丸船来航だろか? 大英帝国でフォー)
B 虎の穴出身タレントってのを、一人でいいから教えてよ。ほかでぜったいしゃべらないから。
A うーん……。いまも虎の穴に所属してる芸人たちの名は、オレも恐くて言えないけど、すでに組織を抜けた人間ならまあいいかなぁ。
テレビでよく見る、中堅どころのタレントに、伊達直太っているだろ?
B えっ、あいつが?
A 伊達直太って、いまはクリーンな笑いオンリーだけど、出てきたころはすごくダーティなことをやってたんだよ。パンツのなかの凶器を、日曜の夜8時のテレビ生番組で出したこともあったはずだ。
B 夜8時ぃ?
A これがほんとの「ゴールデンタイム」なんちゃって。
B ……。
A もともと彼の名前は、直太じゃなくて直「大」、ナオヒロだったんだけど、凶器を取り出して以降、大を太に改名してねえ。
B …………。
あのなあ、あんまり話がそっち方面へ転げると、テレビより規制が寛容な活字メディアだってあぶないぞ。
その「太」の字の下半分、モザイクかけといたほうがいいんじゃないか?(MS-Wordの文字飾り機能に、そういうのないの?)
A そんなことしたらホントに怪しくなっちゃうだろ!
B 文字で遊ぶのは顔文字までにせい。首より下は自粛しろ。
A わかったよ。(実際は「太」のあと「木」の字まで話があるのになぁ)
(忘れて放っていたビールを口にする)
A それはともかく――伊達直太は、虎の穴出身タレントのなかでも傑出したお笑いの才能を持っていたそうなんだ。
しかし、ギャラの50%を上納金として納めるっていう、組織の鉄のオキテを破ってね。裏切り者として、いまは虎の穴から刺客を送られる身になってしまったんだよ。
B 上納金の率が50%っていうのも、プロレス時代のオキテとたしか同じだな。(しかし50%でいいんだったら、虎の穴に入りたがるタレント、けっこういるんじゃないの? もっと激しく上納させる演芸界の地上組織あるだろ)
A 虎の穴の刺客たちは、テレビなんかで伊達直太と共演するたび、芸人・直太を全力で抹殺しようとすんだよ。
彼がボケをかましても、にこりともせず、ツッコミも入れず、冷たい視線をあびせてな。
B 横にいるやつにそれやられたら、ちょっとヤだろうな。
A それだけじゃないぞ。楽屋でひどい陰口をたたいたり、会ってもオハヨウゴザイマスって言わなかったり、飲み会にさそわなかったり……。
B えっ、刺客がすることってそのくらいなの?
A プロレスみたいに、相手と直に戦うもんじゃないから、やれることは限られてるよ。お客さんが自然に笑うのを、阻止する方法なんてないだろ。
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