（その横のテーブルで飲んでいた二人）
Ｃ 聞くともなく耳に入ったけど、バカな会話だったわねぇ。
Ｄ この店のお客、いつ来てもそんなの多いわよ。（アスパラのベーコン巻きを口に運ぶ）
Ｃ だけどさ――猫のヒタイはともかく、おっきい土地のたとえに使われるのって、なぜいつも「東京ドーム」なんだろ？
首都圏ニュースならともかく、全国ニュースで、いっつもそうよね。ときどき、甲子園球場だとか、福岡のヤフオクドームだとかを比較に使ってもいいのに。
Ｄ 大きさのたとえが、いちいち変わったらややこしいじゃないの。（あんたもバカねぇ）
Ｃ そりゃそうだけどさ――。
でも、あそこって、オオヤケの建物じゃなく、株式会社東京ドームさんでしょ？ イベントスペース提供の私企業としては、ものすごい宣伝効果じゃない。
あらゆるメディアが、甘さの度合いを表現するのに、いつも明治チョコレートばっか引き合いに出したらどうよ？ ほかの会社、不公平だって怒らない？
Ｄ 明治チョコお？
Ｃ ヤフオクドームが、うちも東京ドームと同じ比率で全国宣伝してくれって、公共放送にねじこむかもしんないわよ。
むかし、「真っ赤なポルシェ」という歌詞を、公共放送の番組では「真っ赤な車」に歌い替えさせたっていう、有名な話があるじゃないの。何でポルシェはダメで、東京ドームはいいの？
どっちも私企業の名前で、人間の入れ物の名前なのに。（もしかして、動くとアウトなの？）
Ｄ あんたとちがって、ヤフオクドームは大人だからそんなことしないわよ。
だいたい、別に株式会社東京ドームが、あちこちに宣伝頼んでこうなってるわけじゃないでしょ？ 断りもなく、勝手にいつも使われて、むしろ迷惑かもしんないんだし――。
たとえば、ニュースで重さの話が出るたびに、私の体重が比較に持ち出されたら、私だったらイヤだわよ。気になって甘いもんなんか食べられないじゃないの。
Ｃ そうか――。（私もそれ、ぜったいヤだわ）
もしかしたら東京ドームさん、迷惑に感じてるのかもしんないのね。
（別のおバカな二人の会話、終わる。二人は、急にクレープが食べたくなって店を出て行く）
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