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(そのまたさらに隣のテーブル。たまたまこの店で、知り合いと一杯やっていた某県出身の国会議員が、この会話を聞くともなく耳にする)

議員 ふむ。これは、いわゆる東京への一極集中の問題に、深いとこで通じてるかもしれんな。
 首都機能の移転だとか、中央官庁の権限委譲なんて話になると、抵抗勢力がたくさんいるが、コトバを問題にするぶんには、そんなのあまりいないよな。
 一極集中打破の、象徴という意味合いで、ひとつこれを国会で問題提起してみたらどうだろか? くだらないようで、案外こういうシンプルな一歩が、分権推進のアリの一穴になるかもしれん。

(地元に大きな球場をもつ議員のなかに、思いのほか賛同者が集まり、東京出身の議員も、別に不利益なんかないので反対しない。「報道機関における球場たとえ分散化法案」が提出され、国会を通ってしまう)

(総務省に設置された、たとえ分散化推進本部)

 本部長、各メディアがあの法律に従って、球場のたとえを毎回毎回変えるようにしましたら、ややこしいことすんなという抗議の手紙が、続々と来てるそうです。
本部長 かなり、多いのか?
 ぜんぶで、東京ドーム2杯分ほどです。
本部長 こらあ! よりによって分散化推進本部の人間が、分量をノホホンと東京ドームにたとえてどうすんだぁ。うちの設立趣旨にそって、たとえば甲子園球場で何杯分と言わんかい!
 はあ――。でもこれは面積じゃなくて、体積の話だからなあ。甲子園球場、屋根ないし……。
本部長 困難があろうとも、何とか公平にいろいろな球場にたとえるというのが我々のミッションだぞぉ。
 わかりました。ええと……甲子園球場なら、手紙をていねいに、空高く積み上げていけば、球場ひとつで大丈夫と思います。だから、来てる抗議の手紙は、甲子園1杯分ですね。
 もっとも、上空を風が吹かないと仮定してですが――
本部長 ばっかも~ん。あそこは有名な六甲おろしがビューと吹くだろうが! 高く積んだ手紙なぞ、みんな飛んでしまうわ!
 ……本部長、やっぱり体積もんは、ドームじゃないと無理がありますよぉ。わざわざ、たとえのためだけに、甲子園に屋根つけてもらうわけにもいきませんし。
本部長 ……まあ、確かにちょっと無理あるかもな。
 たとえに用いる球場の範囲を、どこまで広げるかだって、あたまの痛い問題です。
 いまは、まず各都道府県に無条件に一つずつ、「たとえ球場ワク」を与えて、東京などでは神宮ほか幾つかの球場を追加してますが、これから新しく球場兼イベントスペースができたとき、加える加えないでモメるのは必至です。
 何せ、日本の全メディアをタダで自らの宣伝に利用できちゃうという、巨大な宣伝利権がからんでますから、1件1件やっかいですよぉ。
本部長 そうなんだよなあ。
 うちでの電話の応対だって、東京ドームの広さは、甲子園球場にたとえると1.2個分ですなんて返答を、毎日無数にくり返してんだから、ウツ病になる職員が出るのもわかるよなあ。
 どこか海の上の、船があまり通らないとこに、サイズ比較専用のドームを一つ、国費で安く作って浮かべとくわけにはいかんだろか? 実際に野球はしなくていいから――。そしたらうちの本部なんか、すぐ解散できるんだけど。

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