B そしたら突然、扇風機が送風をやめて、全体がくるりとこっちに背を向けてからエビ反りして、ブリッジの形ですごい勢いで走ってきたんですよ。
柳川 扇風機が、ブリッジしてこっちに走ってきたあ? ちょっと絵が頭に浮かばないけども、そりゃあもう、ぜったい故障なんかじゃないな。悪霊か何かににとりつかれてるな。
それで、扇風機が突進してきて、君は大丈夫だったのか?
B ええ、途中で扇風機のコードがコンセントから抜けたんです。それで止まりました。
柳川 ……そんな変態的な動作まで、電気に依存してんのかよ。なさけない悪霊だなぁ。
B まあそうかもしれませんけど、この出来事を父に話したら、こりゃあ、起きる現象はどこまでもエスカレートしていくぞ、とてもこのまま放置しておくことはできないって言いまして――。
柳川 お父さんのほうが、正常な感覚だな。
B それで、インターネットで調べて、ヨーロッパから悪魔ばらい師を呼んだんです。
柳川 え、そんなのがまだいるの?
B ええ、「エクソシスト 出張可」でネット検索すると、いっぱい出てきますよ。
柳川 ……。(情緒のない時代だなぁ)
B それで、できるだけ強そうな人を選んで、メールで依頼したんですが、悪魔との戦いは命を落とす可能性もあるということで、ものすごい大金を要求してきたんです。
父は、ほうぼうに借金をして、何とかそのお金を払いました。その悪魔ばらい師が、三日間、悪魔と血みどろの戦いをしまして、扇風機はふつうの機械に戻ったんです。
柳川 それは――すごい体験をしたんだねえ。
B しかし、これは追い払われた悪魔の、たちの悪いしっぺ返しなんでしょうか。その悪魔ばらい以後、うちの父が……。
柳川 お父さんがどうしたんだ? (身をのり出す)
B 借金で、首が回らなくなったという――。
柳川 ここは落とし話の会じゃねえんだぞお! (歯をむき出す)
だいたい、子供が悪魔にとりつかれちゃったならともかく、扇風機だったら、わざわざ悪魔ばらいなんかしないで、ただ粗大ゴミで捨てちゃえばいいじゃないか。電源につながってなきゃ、悪さもしないんだろ?
B そういえばそうだな。
あの悪魔ばらい師も、わざわざ扇風機を電源につないで、必死に戦ってたなあ。髪をふり乱して、呪文を叫びながら聖水かけたりしてたけど、もしかしたら、いいカモにされたんだろか。恐い話だ。
柳川 ただのバカな話だよ。
もっと早くボクに話してくれたら、その人に払った十分の一のお金で、そう教えてあげたのに。そしたらお父さんの首、今でも、ぶんぶん回ってるよ。ヘリの羽みたいに。
B それじゃあ元の木阿弥ですけど――。
ううん、後悔先にたたずですねえ。ボクの話は以上です。
柳川 まあ、当事者としてはたいへんだったんだろうけど、いまひとつ感情移入できない話だったなあ。
今日は、どうも本来の趣旨とちがってる話が多いんだよな。なんでだろ。やってる場所が悪いんだろか?
ええと、もう次で、最後の人なのか。それじゃ、よろしく。(頼むよお!)
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