B はい。
ボクのは、「恐怖の扇風機」って話なんです。
柳川 君のも、ちゃんと名前ついてんのか?
B ええ。
これは、去年の夏の出来事なんですけど――。
柳川 いいねえ。ぞっとする出来事はやっぱり夏がいいよ。冬にぞっとすると、風邪ひいちゃったりするんだよなぁ。あ、これはよけいなこと。それで?
B ええと、むかし、ベッドに座ってる少女の首が、横を向いたあとぐるり一周しちゃうという、有名な恐怖映画があったそうですけど。
柳川 ああ、あったあった。
B これはそれに似ている、異常な出来事なんです。
柳川 (おお、今度のは、ちゃんとした怪談みたいだぞ)
B 7月の終わりごろだったかな、自分の部屋でエアコンをつけながら、机で本を読んでいたんです。
節電しようと思って、エアコンの設定温度をわりと高めにして、扇風機も動かしてたんですよ。
柳川 ふむふむ。
B それで、少し読み疲れて、何気なくぽっと後ろをふり返ったんです。そしたら――それまで首を左右に振って、ふつうに動いてた扇風機が、突然、そのままぐるりと首を一周させちゃったんです! 心臓が止まるかと思いました。
柳川 ……それは、扇風機がボロっちくて、壊れただけじゃないの?
B 壊れたくらいじゃ、配線なんかがあるから、首が一周したりはしませんよ。
柳川 そりゃそうだな。
B それからも、ボクが目を向けていると、意表をついてときどき首が一周するんですよ。
たまたま部屋に来た父が、その瞬間を目撃しまして、この送風機は、リンダ・ブロワーだぁって叫んだんです。何のことかボクにはわからないんですが――。
柳川 ボクはわかるけども、ここは落とし話の会じゃないからコメントしません。(君のおやじには、デーブでも憑依してんのか?)
B 最初はそんなふうに、えらく驚いたんですが、まあ、首がたまにくるっと回るくらい別にいいかなと思って、その扇風機をそのまま使い続けてたんです。
柳川 ああ、そうなの。(あれは故障なんかじゃないですと言うわりには、ぜんぜん気にしないんだな)
B そしたら次第に、首が回転するだけじゃなくて、急に生あたたかい風を送ってきたり、ギシギシ音を出して揺れてみたり、こっちを恐がらす気マンマンなんですよ。
柳川 熱心なやつだなぁ。
B 洗濯が終わったパンツなんかを、よく扇風機の前のとこに洗濯バサミで止めて乾かしてたんで、もしかすると、それに恨みを抱いてたのかもしれません。
柳川 そんなことで怒るんだったら、コインランドリーの乾燥機なんか、毎日、はらわたが煮えくり返ってるぞ。(あ、それであんなに回ってんのかな?)
B それでも、そのくらいの異常さなら、まだ無視することもできたんですが――。
柳川 (よく無視できるなあ) もっと異常なことが、何か起きたのか?
B ええ。あれは、お盆が近づいたころでした。
首を回転させたり、揺れたり、風のぐあいを変えたりする扇風機を、「次のスイングあたりで、ぐるっと行くかな」なんて思いながら、イスに座ってぼんやりながめてたんです。
柳川 ふうん。(この子は、ボクの怪談なんかを聞くとき、はたして恐いんだろか?)
最初へ 1 2 3 4
次頁へ