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出世の近道は左遷にあり?
(2014/8)

 これは、いわゆる関東地方の人にだけ共通したローカルな話である。もっとも、この地域には約4,300万の人が住んでいるそうで(この「関東地方」は、より正確にいえば、「関東版のテレビ番組表」を見ている人の範囲という意味である)、非常にマイナーな話でもまたないだろう。

 長く黄金時代を築いていたフジテレビが、ここのところ苦戦しているのだという。
 1980年代以降、年間視聴率でトップに位置することがダントツで多く、2位に下がった時期がしばらくあった、くらいの感じだったのが、がらり変わってしまったらしい。

 その原因はこれこれである、と分析した記事を、雑誌やネットで目にした。私は、テレビを見る時間は今あまり長くないのだが、昔のフジの番組にはいろいろ思い出もあるので、どんな事情なのだろうと読んでみた。

 そこには、局のあの方針に問題がある、この人物や部署が悪いといったことが、実名入りで書いてあった。記事によって、不調の原因とされていることはまちまちであった。

 私はむろん、そうした内部の状況などまったく関知しない者である。
 しかし、それらを読んだ後、視聴率の当然ながら大もとである視聴者の一人として、これもきっと効いているだろう、と思ったことがあった(同じ印象を抱いている人は、けっこういるのではないかと想像する)。

 初めは、いくら何でもそれが主な要因ということはないだろうと考えたのだ。しかし、あとで書くような具体的な情報を見るうち、このことは必ずしもササイでないような気がしてきたのである。

 逆に言えば、記事で「この方針が悪い、この人が悪い」と言われていたことがほんとうに原因なのだろうか、という疑問でもあるのだが――。

 それは、単純といえば非常に単純なことである。

 まだ記憶に新しい話だが、今世紀に入って少し経ったころ、テレビ放送の「地上デジタル化」という出来事があった。
 このとき、従来のチャンネル番号のアキを埋めることが同時になされ、番組表上で放送局の並び順がけっこう変わった。

 関東の場合、たとえばフジテレビの欄が大きく右へ移動し、番組表の右端に位置するようになった。

 そうした変化のせいで、番組表を見るとき、自分がフジの欄にあまり目をやらなくなっている――そのことを、上述のフジに関する記事を読んだあと、あらためて自覚したのであった。

 番組表の右端には、よくローカルな局の欄が添えられている。そのため、どうも「主要局でない」という印象で、右のエンドをとらえてしまう。

 テレビ番組表の小さな四角を1コマずつ見ていくのは、けっこう労力のいる作業だ。左端のタテ列から順にながめていくと、右端のほうでは、注意力がどうも燃料切れしてしまうということもある。

 テレビ好きで、もともと番組表をじっくり見る方は別だと思うが、私以外の人に聞いても、やはりこういう傾向があるようである。

 最近は、新聞もテレビガイド誌も買うことなく、ネットで番組表をチェックする人がふえている。
 小さなディスプレイで、右端まで番組をチェックするのは、紙面の場合よりいっそうたいへんだろう。

 番組は、むろん誰かから口コミでおもしろいと聞いて、見る場合も多いわけだが、まず見始める人が少なければ口コミを開始する人だって少ないのだから、これは思いのほか本質的な問題のような気がする。
 単発の派手なアッパーカット(ヒット番組)でなく、ボディブローみたいな影響というか。

 これが実際にかなり効いているのではないかと感じたのは、先述の記事などに添えられていた、各局の年間視聴率の推移の表を見たときであった。

 現在の関東地方のチャンネル並びを、いちおう記すことにしたい。1と2:NHK、4:日本テレビ、5:テレビ朝日、6:TBS、7:テレビ東京、8:フジテレビ、である。

 余談ながら――日本のテレビ局は、大きな新聞社と系列関係を持っている。まったくの「たまたま」だけれど(たぶん)、関東地方では地デジ化のあと、新聞の発行部数の順――読売、朝日、毎日、日経、産経――に、テレビ局のほうも左からきれいに並ぶという結果になった。
 そういえば、何といってもいちばん契約世帯数が多いNHKが、しっかりその左にいる……。

 (ついでにもう一つ余談であるが――新聞の発行部数といえば、このまえ「世界の新聞発行部数トップ10」というものを見たら、日本の新聞が、そこに5紙も入っていて驚いた。
 その五つは、読売、朝日、毎日、日経に加え、なんと中日新聞である。
 国内の、ある地域でしか販売していない新聞が、世界の発行部数ベスト10に入っているとは!
 活字ばなれが進んでいると指摘されるものの、国民のすべてがしっかり字を読める――かつ、読む意欲が高い――という点で、世界のなかで日本は今もやはりけっこう特殊な国なのだろう)


 地デジ化の際に、フジテレビが右へ2コマ移動し、番組表の右端に変わったのと対照的な移動をした放送局がある。テレビ朝日である。
 左へ2コマ移動し、上記のように民放の左から2番目という位置(朝日新聞ポジション?)になった。

 欄が「左」へ移動した局が、もう一つある。かつて番組表の右端に位置していたテレビ東京である。
 テレ東は比較的ローカル色の強い放送局であるが、地デジ化に伴って欄が1コマ左へ移動し、TBSとフジの間という考えてみればすごい所(いずれも、長く黄金時代を築いた「民放の雄」だ)に位置するようになった。

 上述の「年間視聴率の推移の表」をながめて、私が「あれっ」と思ったのは、欄の移動があったこれらの局の、視聴率の具体的な変化ぶりなのである。

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