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 「地上デジタル」への移行が全国的に完了したのは、2011年であった(東北の震災の年だったので、年が記憶に残っている。東北の3県だけは、やはり移行が少し遅れたようだ)。

 移行はその前から進められていたから、2011年は地デジ化の年というより、地デジ化が「定着」した年といえるだろう。
 アナログ放送の電波がついに停止され、みなが今のチャンネル並びで生活するようになった年である。

 上述の表を見ると、フジテレビは2010年まで、7年連続で視聴率三冠王を続けている。それが2011年には2位になり、2012年には3位になっている。さらに2013年には、4位になる月も出てきて、フジらしからぬ出来事ということで、先ほどのような記事が書かれている。

 この変化をグラフにしたなら、川の水がずっと平坦部を流れてきたあと、「2011」という名の滝で落下したような形状になるのではないか。

 もう少し正確にいえば、2011年の2~3年前から、新聞などの番組表が今の局並びへ変わり始めたのだったが、まさにそのころからフジの数字が少しずつ下がっているのである。

 「番組方針だとか特定の人間だとかがほんとうに悪なのだろうか?」といぶかしく感じたゆえんである。

 私が購読している新聞の番組表切り替え時の紙面を、実は記念にとってあって、その日付を見ると2009年3月なのだが、これより切り替えが早かったメディアも遅かったメディアもあったと思う。

 一方、テレビ朝日は、何十年も民放の「万年4位」と呼ばれていたそうだけれど(個人的には、個々の番組を見るかぎり、そのような結果だというのはちょっと不思議であった)、こちらも2011年のあたりでやはり大きな変化をしている。

 2011年には、視聴率3部門とも、2位のフジに接近し、翌2012年には逆転して、2部門で2位、プライム部門ではなんと一気に1位。さらに2013年には、2部門で1位と、ロケットみたいな急上昇をしている。

 先ほどのフジの変化を裏返しにしたかのようだ。

 もちろん、局の特別な努力や対策も効いているのかもしれない。しかし、何とか上位へ行こうとする工夫はどんな時代にもテレビ局にあったものだろう。
 しかも、あまりのタイミングの符合……。

 一般にはこうむりたくない、大幅な「左遷」がここではプラスに効いたのではないだろうか。

 地デジ化で「左遷」されたもう一つの局は、テレビ東京であった。関東の方は、報道などで見聞きされているのではないかと思うが、こちらがまた、最近すごく好調なのだという。

 テレ東は、地デジ化後に番組欄がTBSとフジの真ん中へ移ってから、ローカルな印象が薄れ、他に対してイメージがよりフラットになったと思う。

 そして、実際にそんな印象どおりというか、報道によれば、このごろテレ東の視聴率がTBS、あるいはフジを抜いて、民放4位に上がる時間帯がけっこう増えてきたのだという。

 予算の規模が他とはまったく違うだろうから、全国ネット4局のなかでの順位の入れ替わり以上に、これはすごいことである。利益の「伸び率」では、大躍進のテレ朝さえ上回ったのだとか。

 いくつもの、開局以来初めてとか、何十年ぶりといった変化が、たまたま各局で同一タイミングで起きた。しかもそれが、地デジ化の時期にまで、ぴったり一致していた。

 そう考えるよりは、これまで意識されていなかったけれど、実は小さからぬ影響をもつ要因が一つあったと考えるほうが、自然な気もする。

 関東では、地デジ化の際にチャンネルの空き番号(5、7、9……)を埋めるにあたって、各局が以前の並び方のまま、左に順に詰めるという案もあったそうである。

 しかし、TBSとフジが、6と8という番号を変えることを望まなかったので、テレ朝とテレ東が5と7へ移ったのだという。

 長い栄光の時代を経ているTBSとフジにしたら、6と8という番号は、川上哲治の背番号「16」と長嶋茂雄の背番号「3」みたいなもので、小さい番号にアキがあるから変えるなんて数字ではなかったのかもしれない。

 逆に、それほど栄光ある番号ではなかったせいで、他の局はポンと左側の番号へ移ることができ、もしそれが有利さにつながっているのだとしたら、ちょっと皮肉なことだ。

 もちろん、これは1枚のデータ表を見て、そんなことが頭をよぎったという話にすぎない。どちらかといえば、この見方が大外れだったらむしろ喜ばしいと、個人的には思っていさえする。元気だった時代のフジテレビに、少々愛着を感じているためであろう。いろいろ、革新的でおもしろかったのだ。

 番組表での位置というのは、初めに書いたように、そんなに小さくない事柄だという気はする。
 しかし、考えてみればもともとフジテレビは、中ほどとはいえ番組表の右半分に位置していながら、全放送局のなかでずっと一番人気を続けていたのであった。

 古来、左より右のほうが地位が高いとされてきたために、左遷なる言葉は生まれている。誰々の右に出る者はない、なんていう、「右側こそ上位なり」という物言いだって、日本にはあるではないか。
 などとあまり書くと、左端へ詰めている「日の丸放送局」――NHKと日本テレビ――に怒られるかもしれないが。

 欄が右の端へ移動しつつ、フジがまたユニークな発想の連続で黄金時代を築いたりしたら、それこそすごいことだと思う。

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