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 まあ、楊貴妃は8世紀前半、日本でいえば平城京時代の人なので、中国のテレビ・通信社も、事実報道というより、そのような仮説をマナイタに上げて楽しんでいるという感じなのだろう。

 しかし、一つおもしろく思われるのは、「美女の象徴」楊貴妃の名前を持ち出したこの話を、末裔のダレソレ側ではなくて、中国側が語っているという点である。

 たとえば、かのキリストが実は死刑を逃れ、はるばる日本まで達し、青森にそのお墓があるなんていう話がある。いわゆる竹内文書だ。
 この話を、キリストを生んだ元の社会の人が耳にしたなら、ただ「半笑い」、「コメント特にありません」という反応だと思う。

 あるいは、田代氏もふれているが、「義経ジンギスカン伝説」というのがある。モンゴルの英雄、ジンギスカン(チンギス=ハーン)が、実は源義経と同一人物だったという説である。
 この話も、世界に名をとどろかせた英雄、チンギス=ハーンを生み出したモンゴルの人たちが聞いたなら、同様の反応だと思う。

 モンゴル料理とは似ても似つかない料理が、日本で「ジンギスカン鍋」と呼ばれていることくらいはまだ許せても(日本人も、他国で作られているメチャクチャな日本料理に寛容であらねばならない)、うちの英雄そのものについて妙な話をねつ造するなという感じであろう。

 ところが先ほどの話では、楊貴妃の母国、中国の人たちが自ら、他国の女性を、あれは楊貴妃の末裔であると言っているのである。
 しかもその「他国」というのが何と、中国でたぶん最も評判の悪い国、日本なのだ。これはどうしたことか? 

 上のキリストの墓の話でいえば、ヨーロッパ・キリスト教圏の政府系通信社が、わざわざ青森を訪れ、「キリストが日本で死んだという説はほんとうだった」と自国で報道しているような話だといえる。

 おそらくこれは、中国にあって山口百恵という人物の評価が、それほどまでに高いということなのだろう。
 近隣の国に何か良いものがあると、「実はあれ、そもそもうちが起源なんだよ」という見方へ引力が働くことがあるが、山口百恵はその域に達しているということではないか。

 尖閣の問題などで、いま日中関係がきわめて悪化している。しかし、中国で反日の嵐が吹き荒れても、山口百恵の人気は揺らいでいないという。

 いっそ、尖閣諸島に、山口百恵の巨大な銅像を建ててはどうだろうか。
 これは、ニッポンを代表する偶像(アイドル)の一つである。日本としては、あそこに何か具体的に、日本らしい象徴物を建設したい。
 しかし、かの島に楊貴妃の子孫の像が建つという話なら、中国サイドだって怒らないであろう。
(……そんなことはないだろうな……)

 青森にあるキリストの墓は、けっこうな観光資源になっているようだ。そこで売られている、わさび味のアイスがおいしいという話がある。

 本州の北端に、かのキリストの墓(と呼ばれているもの)がある。これに加え、本州のもう一方の端(山口)で、かの楊貴妃の墓が見つかったりしたら、日本はどうなることであろうか。

 まあ、たぶん見つからないだろうから、どうにもならないのであるが――。

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