主流はワイド型でもよいけれど、かつてのような縦に余裕のある形状をもち、かつ最新の機能をしっかりそなえたディスプレイが、なぜこうも無いのだろう?
(もし既にあるとしたら、家電店のパソコン売場はなぜまるで置かないのだろう?)
実用的な利点は多々あるのだから、あまり差がない商品で他メーカーと競うより、はるかに売れる可能性を秘めていると思うのだが。
オフィスで各人がデスクに置いているノートパソコンなどは、用途のほとんどが事務作業である。
タブレットの普及で、個人によるパソコン購入は減っており、パソコンの用途は今後ますます、ビジネスユース中心になるだろう。
そうしたなか、ディスプレイがみな動画鑑賞を指向しているのは、最大の顧客を無視し、急速に消えつつある少数の顧客を重視しているように映るのである。
かつて、ホンダ・シティという、大ヒットした小型車があった。
ホンダ車といっても、性能面で人気が出たわけではない。ヒットの理由は、当時の状況と、実用志向と、大胆な「抜けがけ」にあった。
抜けがけというのは、「乗用車は車高が低いほどかっこいい」という常識のもと、全メーカーがそろって平べったい車を作っているなか、思いきって背の高い車を出し、ヒットさせたということである。
車高が低い車というのは、実用から考えれば悪いことだらけだ。
運転者は視界が悪く、安全の面でハンディを負うし、乗せてもらう人だって、天井が低い空間など快適なはずがない。
そうであっても、どのメーカーも、売るには車高を低くせねばならないと考えていたのだった。
ホンダがこうした車を作ったのは、なにか画期的な車を出してやろうという意志からでは、必ずしもなかったようだ。
作ろうとしたのはコンパクトな車であったため、車高の低さを、広さによって補うことができない。しかし、自動車にあって室内での快適さは重要である――というジレンマを考えつめるなかで、ついに背丈を思いきって高くする決断をしたという。
乗ると実際に快適だったことがむろんヒットの一因だろうが、より大きな勝因は、「快適さを考え、見ばえの点はあきらめました」と言うのでなく、「この高さこそが新しい」という逆転のアピールをしたことではなかろうか。
CMソングもまさに、「これは街(シティ)で人の目をとらえるぞぉ」と歌いかけていた。
ほかの乗用車が、そろって自ら頭を低くしているのだから、そこに混じって街を走れば目立たないわけがない。
自動車の話を持ち出したのは、ハンディなノートパソコンや、せまいスペースに何とか置くディスプレイのありようが、コンパクトカーのそれによく似ていると思うためなのである。
もともと全体が大きければさほどでもないが、こうしたものでは、あえて高さを減らすことのデメリットがはなはだしい
自動車ついでに、もう一つ思い出すと――むかし、「となりの車が、小さく見えま~す」という、大きいものを所有する優越感をくすぐるCMがあった。
日産自動車が、トヨタのカローラよりちょっと上を行く車を出したとき、流したCMだ。
これになぞらえ、ひしゃげた形の今のディスプレイと、背の高い新ディスプレイを横に並べて、「となりのディスプレイでワープロを打つ人が、気の毒に見えま~す」と宣伝したなら、後者を選びたくなる人は多いのではなかろうか。特に、幅がほぼ等しいものを二つ並べれば――。
MSワードを実際に使ったことがある人は多いのである。
個人的な印象をいえば、20インチくらいまでのディスプレイ・サイズなら、以前の縦横比の、細長くないディスプレイのほうが総合的に使い勝手がいいと思う。
パソコン売場へ行くと、ワイド画面に統一されたノートパソコンが、ずらりと並んでいる。各々、どこに違いがあるのか、遠目にははっきりしない。
こうしたなかに、シティ・ディスプレイがぽつんと一つ混じり、「あえて、このようにしました」という長所強調アピールをしたなら、まちがいなく目立ち、買い手を得ると思うのだが――。
2016/6/5追記: 縦にゆとりをもつディスプレイは、家電のネットショップ等で「スクエアモニター」で検索すると見られる。
こうしたタイプで、置けるかぎり幅広のものを選べば、ワイド映像を見るときもマイナス点はない(「高は低を兼ねる」)。しかし、インチサイズの選択肢が少ないのが残念である。
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