初期のクイーンのアルバムで、フレディは「ファニー・ハウ・ラヴ・イズ」(愛は何ておかしな/奇妙なものだろう)という曲を作っている。
彼のなかにはこうした「Love観」がずっとあり、それが再び、"Crazy Little Thing Called Love"として形をとったのであろう。
このタイトルをストレートに和訳するなら、「愛と呼ばれる、ちょっとしたクレイジーなもの」といったところか。
これは俺の出番だろ
「愛という名の欲望」が実際はそうした内容の曲であることを踏まえると、ジョン・レノンがこの曲にピクッと反応した事実は、いっそう正確にとらえられるかもしれぬ。
この曲を耳にしたジョンは、たとえばこんなふうに感じたのではなかろうか。
1曲まるまるLoveをテーマに語りとおす曲なんて、誰よりも俺のテリトリーじゃないか(この男も俺に似たニオイがするけど)。プレスリーふうのサウンドだって、昔から大好きだ。
俺もひとつ、こういうのを作ってみたくなったぞ(腕やノドがうずく)。
そして、ジョンがプレスリーふうの発声をちょっと入れる曲、「スターティング・オーヴァー」(このタイトルも、後世にずいぶん影響を与えた)が誕生する。
「年をとったけど、僕らの愛は今も特別だ」
「ふたたび羽をひろげて飛び立つときが来た」
「始めよう、最初のときみたいに」
ジョンを触発した「愛という名の欲望」同様、この曲も全米シングルNo. 1まで昇った。
もちろん、ジョンの突然の死が、この曲を強烈に押し上げた面が多分にあったのだが……。
フレディが、ジョン・レノンを追悼する曲「ライフ・イズ・リアル」を書いたのは、ジョンが「スターティング・オーヴァー」を発表した、1年半ほど後のことであった。
未だ訪れぬ国へのカミングアウト?
冒頭に書いたクイーンへのアンケートに関して、最後にもう一つ、半世紀近くたって見てびっくりしたことを付け加えたい。
このアンケート(と回答)は、日本語ライナーノーツに載っている。にもかかわらず、質問も回答も英語のままとなっている。
質問(日本側)の文章を見ると、英語が得意でない人が担当していることがうかがえ、かつ、クイーンがかなり英国スラングを使って答えている。
そのため、ネット調べなどできない時代のことだから、訳せずそのまま載せてしまったのではないかと想像する。
私もむろん当時、意味のわからぬ部分だらけでながめていたのだったが、スラングがネットで簡単に調べられる現在あらためて見ると、「何と、こんなことを答えていたのか」と驚くフレディの回答があった。
「音楽以外の特技は?」という日本側の質問に対し(ちなみにロジャー・テイラーの回答は「ほらふき」)、フレディはpooveryという単語を書いている。
これは分厚い辞典でも見つからぬ単語だが、ネットで英国の辞書に問うと、「同性愛者特有のふるまい」、あるいはずばり「男性の同性愛者(male homosexuality)」とある。
単にそうした意味の単語というより、侮蔑的なニュアンスをふくむよう。
このアンケートが実施されたのは、フレディがまさにそちらの方向へ踏み出したといわれている時期である。
当時、日本にまだフレディに関する情報はほとんどなく、この単語の意味がたとえわかっても「冗談かな?」と感じたかもしれない(すぐ横の欄でロジャーがふざけているし)。
しかし、いま見返すと、日本への「初めてのご挨拶」的な機会に、なぜこんなずばりの回答をしたのだろうかと思う。
これも、伝説の初来日に先立つ、フレディのふしぎな回答なのであった。
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