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務駅奈発明研究所・再訪

(「務駅奈発明研究所」を、「月刊 先端研究」の取材記者が再び訪れる。所の先端的研究を何か見学させてほしいという要望。
 所員が研究棟へ案内する)

記者 このまえ取材させていただいた記事ですけど、読者から「こんな研究をしているところが日本にあるとは、びっくりした」「衝撃だった」という反響がものすごくありましてね。(日本が信じられなくなったという声もあったけど)
所員 そうですか、私どものところは、来られる方、みなさんかなり驚いて帰られますからね。
 これからご案内する研究室も、少し前に、画期的な成果を得たところなんですよ。

(研究室に着く)

所員 取材の方、見えましたのでよろしく。
研究員 あ、どうぞこちらへ。

(椅子へ導く。横の机の上に、ビデオのディスプレイが載っている)

研究員 うちのご見学は20分間でしたね?
所員 ええ、そうです。
研究員 それじゃ、さっそくご説明しましょう。
 ええと……「猫じゃらし」というものをご存知でしょうか。エノコログサともいいますが。
記者 ええ、茎の先に、細長いフワフワがついたあれですよね?
 あれを大きくしたようなおもちゃを、うちの猫の上にかざして、遊んだことありますよ。
 ほとんど直立状態になって、前足で夢中になってじゃれて、止まらなくなっちゃいますよね。
研究員 そうですね。猫じゃらしの形や触感は、猫の心にうったえる、何か特別なものを含んでいるのだと思うんです。
 あるテレビ番組が、猫じゃらしの巨大なのを作って、ライオンに試すという企画をやっていましたが、リアクションが猫とそっくりで実におもしろかったですよ。
記者 へえ。
研究員 私は考えたのです。
 必ずしも猫やライオンだけではなく、私たち人間にも、それを目の前に出されたら、どうしてもじゃれたくなる形状があるのではないかと。
記者 人間に?
研究員 ええ。それでさまざまな形状を、棒の先に付けて試してみたのです。
 結局、1,000種類以上、試すことになっちゃいましたが。
記者 そりゃ…………すごい。
研究員 その結果、猫じゃらしと同じ影響を、人間に与える物体をついに見出したのです。
記者 そんなものが、見つかっちゃったんですか?
研究員 はい。私はこれを、「ヒトじゃらし」と名づけました。
記者 …………。
研究員 この実験ビデオをご覧ください。

(リモコンを押す。机の上のディスプレイに映像が映る。
 部屋のなかに立つ、40歳くらいの男の被験者。研究員がその上方に、釣りざお状の棒を差し出す。
 男の表情が変わり、その棒に、両手でじゃれ出す。
 やがて、一心不乱になっていく。
 やや下方から、その動きをずっと撮りつづけるカメラ)

記者 うちの猫のリアクションと、そっくりだ……。
研究員 そうでしょう?
記者 画面を通して見るかぎり、あの棒にそれほどの力があるとは、ちょっと思えませんが。(「やらせ」じゃないのかなあ)
研究員 ははは。論より証拠、試してごらんになりますか?
記者 試せるんですか?
研究員 ええ、すぐできますよ。
記者 じゃ、せっかくですからぜひ。

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