場内MC さあ、今度はグラウンドに、とてつもなく大きな球体が運ばれます。球の頭から、太い線が1本出ています。
このシンプルな姿から、皆さまもう、これが何かおわかりでしょう。
煙玉・ザ・ジャイアントです。
客B 煙玉……が……大きいだけって……。
客A 生産性ゼロの、煙突工場みたいなものか?
(導火線に火がつけられる。ライトに照らされ、白い煙が夜空にもうもうと立ちのぼる)
客B ものすごく…………つまんない。
客A 意味もなく、地球温暖化が進んでいくな。
客B あの大玉を作る途中で、「やめよう」って止める誰か、いなかったのかな?
客A やっぱ国立競技場には、問題があってもずんずん進んじゃってエライことになる、魔物が潜んでるんだよ。オリンピック用の、新築のときみたいに。
(だんだんに煙の量が減り、この上なく地味に花火が終わる)
客B 今までのを見て思ったけど、花火って、出だしは地味でもいいから、最後に派手なクライマックスがほしいよね。音でも光でも。
客A うん、その辺がやっぱり納涼感なんだよな。
場内MC 花火は、最後に大きなクライマックスがないと寂しいというあなた。
客A 聞こえてんのかい!
場内MC 本日、最後の出しものは、輪の直径が10メートルの、巨大ねずみ花火です。
これを場内に20個ほど置いて、遠隔着火いたします。
これらは、火をつけると皆さまよくご存じの挙動をする、花火界のねずみ野郎でございます。
客A おいおい。あれの動きっぷりは、ヘビ花火どこじゃないだろ。どこへスッ跳ぶかわからん……。
場内MC グラウンドだけでなく、客席に入る可能性が十分にありますが、こんなイベントへ自ら来る、飛んで火に入る夏のお客さんなら少しヤケドしてもいいだろ、ということで、消防庁から特別許可が出ました。
客A 出すんじゃない!
場内MC それでは、お帰りの方が出て寂しくならないうちに、火をつけることにしましょう。
(ライトが消される。暗闇のなか、グラウンド内のあちこちが、不気味に赤く光る)
しゅるるるる しゅるるるる
ひゅーーん ひゅーーん
客A ぎえええ。こんなクライマックスはいらねえ。
客B これだけは、ぜったいテレビで見る方が楽しいな。
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