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史上最大の○○花火

(非常に派手で、非常に地味――今までなかったタイプの巨大花火大会が、国立競技場で開かれる。
 この大会のテレビ中継を、現地にいる客AとBが、モバイル端末で見ている)

TVアナウンサー かつて巷で、ポッキーなど定番のお菓子を巨大化した商品が人気を博したことがありましたが、これはその花火版といえましょう。
 といっても、打ち上げ花火の火薬を百倍にして、爆弾もどきを作るわけにはいきません。本日は、駄菓子のように庶民的な花火の、ジャイアント版が登場します。
 小さなイモリだって、大きさ百倍になれば恐竜のごとくなり、大勢の人を集める見世物になる。そんな世界をお楽しみください。
 競技場には、「何が起きても、あとでけっして文句をいわない」という誓約書に署名したお客さんが詰めかけています。

場内MC お待たせしました。それでは地味で、はかないけれど、意外な人気者。あの花火の登場です。

(競技場の上空に、ヘリコプターが現れる。直径5メートルほどの巨大な球体を吊るしている。
 ヘリは競技場の真ん中あたりで静止する)

場内MC いよいよ姿を現しました。これまで、この十分の一のサイズさえ作られたことがない、巨大な線香花火です。

客A ……。

(はしご車がグラウンドに現れ、はしごをのばして線香花火に着火する)

場内MC 消防のはしご車が、火を消すためでなく火をつけるために使われるのは、歴史上初めてのことだそうです。

客A そりゃそうだろうけど。
 消防署がよく、こういうチャッカマンみたいな仕事に協力してくれたな。
客B 花火大会と消防署は、むかしから縁が深いからじゃない?

(巨大な球体に火が回る。かぼそい火花が、表面に散り出す)

パチパチッ

客A おおっ、でかい。

パチパチパチパチ……

客A
 でかいけど、それ以外におもしろみは無いな。
 何だか、このイベントの展開を暗示しているような気が……。
客B (手もとの端末で、生中継を見る) 小さい画面で見ると、ちょうどふつうの線香花火くらいね。
 テレビ見ている人、楽しいんだろか? 家の庭で線香花火をやったほうが……。

ボトッ

(赤熱した巨大な玉が落ちる。すぐに消防車がまわりを囲んで、水をかける)

客A 仲間がつけた火を、自分たちで消してる。壮大なマッチ・ポンプだ。

場内MC 巨大な「静」の美をご覧いただきました。ここで「静」から「動」へ、鮮やかなチェンジです。
 このあと皆さまの前に、またたく間に巨大なヘビが出現します。
 火をつけると燃えカスがヘビのように延びる、あの「ヘビ花火」のジャイアント版です。

客B ……。

(競技場のライトが明るさを増す。
 丸ビルを思わせる黒い巨大円筒が、競技場中央に据えられる)

場内MC これは、近くへ寄って火をつけると危険ですので、消防署の最新型の火炎放射器で火をつけます。

客A
 何でそんなの、持ってるんだ?

(着火すると、黒い燃えカスがすさまじい勢いでふくらむ)

客B わわっ、客席の上までまで覆いかぶさってきた!
客A 熱くてたまらん。ぜんぜん納涼じゃない花火だ。

(テレビ放送が、上空のヘリから、競技場いっぱいに広がった黒く太い物体を映し出す)

(燃えカスの下でテレビに目をやる二人)

客A 恐竜がウン○をしたあとみたいだなあ。

(30分ほどかけて、燃えカスが除去される)

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