後ろの席だけどかぶりつき
(未来ロボットのダラエモンと、ねび太くんが話している)
ねび太 来年の初めに、人気アイドルの「わさび&からし」のコンサートに、スネ男やシズ子ちゃんと一緒に行くんだけど、席がいちばん後ろのほうなんだ。
ぼくは目が良くないから残念だなぁ。
ダラエモン ふうん。じゃあ、いいもの出してあげようか。いま、クリスマスシーズンでもあるし。
(お腹の四次元ハラマキに手を入れ、帯状の黄色い布を取り出す)
ダラエモン これはキリンの毛皮で作った、未来の特製エリマキでね。これを巻いている間は、誰でも、ろくろ首になれるんだ。好きなだけ長く、首を伸ばすことができるんだよ。
これを巻けば君は、ねび太じゃなく、のび太君だ。
ねび太 へえ……じゃあ、ステージの近くまで顔を持ってけるんだ。
ダラエモン 撮影クレーンに乗ったカメラで、スターへ接近するような感じだよ。
使うのは、コンサート会場だけにしてよね。お風呂屋へ行って、のぞきなんかに使っちゃだめだよ。
ねび太 今の時代、お風呂屋なんてめったに無いんだよダラエモン。(ぼく達の連載が始まったときは、一般的だったけど)
ダラエモン (エリマキをいくつも取り出す) たくさんあるから、スネ男やシズ子ちゃんにも貸してあげなよ。
ねび太 サンキュー。
でもそんな長い首が、客席の上を何本もニョロニョロ動いてたら、ほかのお客さん怖いだろうな。
ダラエモン ファンは、お目当ての歌手しか見てないから大丈夫さ。
ねび太 どんなスターだって、ろくろ首ほどは派手じゃない気がするけど……。
ダラエモン いまちょっと試してみるかい、これ?
ねび太 そうだな。(黄色いエリマキを、こわごわ首に巻く)
ダラエモン 「あのへんに行きたい」って思えば、そこへすぐ首が伸びるんだよ。
ねび太 じゃあ、ちょっと1階を見てきてみよう。いま家に誰もいないから。
(ダラエモンが部屋のドアを開けてやる。
ねび太の首が、ひょろひょろ階段へと伸びていく。
残った胴体を、ニコニコしながらながめているダラエモン)
(しばらくして、ねび太の頭が戻ってくると、口の周りが黒く汚れている)
ねび太 菓子入れのフタを口で開けたら、おはぎが入ってたから食べてきちゃった。
ダラエモン ああ、胴体で、何かを飲み込んでる音がするなと思ったら、おはぎだったのか。
ねび太 途中、自分の姿を鏡で見て、卒倒しそうになったけどね。
ダラエモン すぐ慣れるよ。首の長さが変化するだけだから。
ねび太 たしかにこれなら、「わさび&からし」のすぐ前でショーが見られるね。
ダラエモン それどころか、歌手を背中側から見ることだってできるよ。回り込んで。
ねび太 でも、シズ子ちゃんたちはこれ、どう思うかな?
(後日、二人に話すと、二人とも秘めたる「ろくろ首願望」を持っていて、賛成する)
(コンサート当日。おそろいの黄色いエリマキを巻いて、会場へ出かけていく三人)
スネ男 ためしにちょっと伸ばしてみよう。「あそこへ行きたい」と思えばいいんだったよね。
ねび太 うん。
(スネ男の首がするすると伸び、道の横の高層ビル屋上をのぞきこむ。驚いて、街路樹に激突する一台の自動車)
シズ子 わあ、ぶきみ! でもおもしろそう。
私は恥ずかしいから、伸ばすのは会場へ行ってからにしよう。
ねび太 (シズ子ちゃんの首がくねくね伸びるとこを見ちゃったら、そのあともう、今までのような関係ではあれない気がするなぁ)
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