B 野球は、そんだけ日本人にぴったり合ってたんだろ。
(競うようにタコ焼きをほおばる)
あのころは、苦心の日本語化で、カレーライスを「辛味入り汁かけ飯」と呼んだらしいな。
A ライスはともかく、「カレー」という言葉を使っちゃいかんと言われたらたいへんだヮ。
B すごく真面目に考えて決めたんだろうけど、今となっては笑ってしまうな。
サイダーの和訳は「噴出水」、サキソフォンなんて、「金属製曲がり尺八」だぞ。
金属製でやっぱり曲がってる、トランペットやチューバはどうなるんだ?
A 噴水と噴出水をくらべたら、より噴出水なのは、噴水のほうだよなぁ。
「辛味入り汁かけ飯」と聞くと、俺はカレーより、カルビクッパを連想しちゃうよ。
B 仮に、戦時中にストを決行しようとする組織があったなら、彼らはそれを、「よし」決行と呼んだだろうか?
A 戦時中に、のんきにストなんかやってられっかよ。
敵性語を使った上に、サボタージュまでしたら、お前は日本から出て行けって、魚雷に身をくくりつけて撃ち出されちゃうぞ。
(前方で応援団が、「金属製曲がり尺八」を出して応援の準備を始めている。
横でチアガールが、ダンスの動きの確認をしている)
B (その動きを見ながら) そういえば俺、ストライクとストライキよりも、もっと一つに統一した方がいいカタカナ語があると思うんだ。
A 何だい?
B たとえば、若い女の子がいて、「私、バレーやってます」って言ったとするだろ? そしたら、「どっち?」って聞かないか?
A ああ、聞くな。男の子なら、踊りのバレエのほうは、まずないだろと思うけども。
B このまえ、辞書を見ていてたまたま気づいたんだけど、球技のほうの「バレー」って、サッカーやテニスで使ってる「ボレー」と、英語じゃおんなじ単語なんだよな。
A あ、そうなの?
B うん。要するに、タマが地面に落ちるより前に打ち返すっつうことだな。こういう意味合いのものは、みんな「ボレー」に統一したほうがいいと思うんだよ。
そしたら、「バレーやってます」「どっち?」「踊るほうの」なんていう、メンドクサイ確認が、日本で今後いっさい不要になるじゃないか。
A たしかに、「バレー」の最後の字を「エ」にして二つを区別するなんていう、苦しい工夫をしてるもんなぁ。音で聞いちゃったら、そんな違いわかんないんだし。
でも、ボレーボールなんていうスポーツ名にしたら、ぼろっちい球でやる貧相な競技みたいだぞ。
B はは。だけど、あのスポーツの特徴は、そう呼んだほうがよくわかると思うんだよ。
(客席がだいぶ埋まってくる。前方に、アメリカ人らしき陽気な集団が座って、アルコールとホップ入りの噴出水を飲み出す)
B ライスで思い出したけど、アメリカの政府要人に、ライスさんという人がいたじゃないか。女の人で、たしか二人。
A いたいた。米国の、ライスさんだから、日本人にしたらすごくおもしろいよなぁ。
米国のライスさんが、米の市場開放をせまってきたら、他の人の場合より拒みにくいかもしれんぞ。
B んなわけあるかよ。
あの名前のつづりは、まさにお米のライスなんだけど、日本人が発音すると、ときどき頭のRがLの音になって、「シラミ」の意味のライスに聞こえちゃうらしいんだよな。ダニ、シラミの。
A ああ、聞いたことあるヮ。俺たちはRもLも似たような音じゃねえかと思うけど、あっちの人にはまるで違う音らしいからな。
B Lで「ライス」と呼ばれるのは、たとえば白井さんという人がアメリカへ行って、みんなに「シラミ」「シラミ」と発音されちゃうのと同じだ。
頭では「彼らに悪気はないんだ」とわかっていても、心情的に、何だかその国に好感が持てなくなっちゃうかも……。
A よりによって、シラミだもんなぁ。
B オバマ政権の要人のライスさんが、アジアでの日本と他国の関係について、ほかの要人が日本寄りの発言をしているのに、一人だけ逆の姿勢だったことがあるだろ?
あれはもしかして、日本人の、たび重なる「シラミ」呼ばわりのウラミじゃないだろか?
A あほか!
……でも、古田のストライキの話よりは、0.1%くらい信ぴょう性があるかもしれないな。
B 日本の政治家は、ライスさんと会うときはR音の練習をしといたほうがいいと思うぞ。
A たしかに。米国人のライスさんたちの機嫌をそこねて、いつもカライ対応をされたら、まさしく「辛味入り汁かけ飯」になっちゃうもんなぁ。
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