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名捕手の顔合せ
(2018/4/20)

 このまえ、平昌オリンピック・スピードスケートの女王対決(小平奈緒/李相花選手)の話を書いた。

 その試合の翌日、メディアがこの話題をこぞって報じるなか、ある「頂上対決」がニッポンで、ひそかに(五輪に比べたら)テレビ放送されていた。
 「徹子の部屋」に阿川佐和子が出演したのである。

 阿川佐和子という人は、氷上の戦いのような出版不況のなか、著書「聞く力」をなんと170万部以上も売った、「他者の話を聞く界」の大物だ。

 一方、黒柳徹子は、私の子供のころの認識は「日本一よくしゃべるおねえさん」だったけども(「まんが海賊クイズ」司会等)、いまや、ゲストの話を聞く番組でギネス記録をもつ人物である。

 ふたりの対談は、「聞く力」の横綱――韓国ふうにいうなら聞力女帝――のぶつかり合いといえよう。

 私は、1973年プロ野球日本シリーズの、森昌彦(巨人)-野村克也(南海)の名キャッチャー対決、あるいは1992~93年日本シリーズの、古田敦也(ヤクルト)-伊東勤(西武)の名キャッチャー対決などを思い出しながら、小さからぬわくわく感とともに、始まりのあの「ルールル、ルルル、ルールル……」を聞いていた。
(正確には、土曜日にやってた再放送を観たのであるが)

 捕手としてビッグなだけでなく、しゃべりでも首位打者の力をもつ点で、私は黒柳徹子を、頭のなかでノムラやフルタと重ねあわせていた。

 前にいちど、阿川佐和子ゲストの「徹子の部屋」を観たときは、番組の途中でゲストがゲストなのに「聞く」攻撃へ転じ、押されたホストがそのまま土俵を割るかと思ったけども、しっかり聞き戻して土俵中央へという展開があった。

 今回は、阿川佐和子が新婚ホヤホヤで、そのあたりをホヤホヤ語り、黒柳徹子がゲストに「裏切者!」と言ったり、親友・檀ふみの「うらみの手紙」(番組向け書きおろし)がサプライズ紹介されたりした。「自分がオヤジ化しているのに、結婚するとは」「あなたの幸せはわたしの不幸せ」といった内容。

 知情意ならぬ「知」「笑」「美」をあわせもつ、この3人のような女性タレントの予備軍は、いま若手だと誰だろうかと観ていて思った。

 後年、あの「たまねぎ・ヘア」の印象が強いために、顔の印象が相対的にうすくなってしまったが、私が初めて見たころ、黒柳徹子は職業=女優だけあってすっきり「美人」に属していた。

 このひとの「たまねぎ・ヘア」と顔の関係は、「いますれ違ったコ、すごいミニスカートだったから、顔はよく見なかったよ」という話に似ている。

 同じ「聞き手」のビッグネームでも、黒柳/阿川両氏の聞くスタイルは対照的だ。

 阿川佐和子は、活字メディアだけでなくテレビでの聞き役も見たことがあるが、ゲストをたくみにツッついて、自発的にしゃべり走らせる達人である。ウマガドコヘイクカ、ワカラナイゾ。

 これに対し「徹子の部屋」のほうは、事前にゲストからそうとう話を聞いてあって、本番の収録はその「エッセンスの再現」みたいになっているのがわかる。
 番組中の徹子さんのスタンスは、何というか、オーケストラの指揮者に近い。

 「こういうことがあったんですって?」といった言葉で、きっかけの合図を送ると、あの楽器やこの楽器の達人が、お客さんにむけて腕をふるう。

 実際、あの低いテーブルの上には、楽譜みたいに進行の紙が広げられているのが見える。
 話してもらうことはおおよそ決まっていて、それが効果的に披露される補助やアレンジをしているのだ。そういう聞き役。

 毎日ちがうゲストが登場し、内容は編集なしとなれば、これが最良の方法ということなのだろう。
 徹子さんは自らがしゃべりの達人なので、「話は、おもしろみをぎっしり」という感覚がもしかしたら強くあるのかもしれぬ。

 それはいいのだが、ちょっと残念なのは、流れのなかでホスト自身が何かおもしろい話を口にしても、進行がきっちり用意されているので、すぐまた「聞き」へ戻ってしまうことだ。

 あの番組のタイトルは「徹子の部屋」であって、「徹子が聞く部屋」というタイトルではない。そうであれば、この番組は時には、「徹子がすごくしゃべる部屋」でもいいように思われる。

 黒柳徹子は、テレビ放送の開始(1953年)とともにこの世界に入ったという、「日本テレビ界の歴史」そのものみたいな人物だ。ゴジラ(1954年~)より、わが国のエンタメ界に長くいる存在。

 若い世代にはあんまり知られてないと思うけど、日本でいちばん売れた本(「窓ぎわのトットちゃん」、800万部)を書いた人でもある。

 ちなみに、ランキングの2位はあの松下幸之助の書「道をひらく」で、3位は「ハリーポッター」だそうだから、窓ぎわ族の人の本が、神さまや魔法使いの本より売れたのだ(とても希望をあたえる話である)。

 窓ぎわ族という言葉も、いまは通じにくくなっているだろうなあ。
 「トットちゃん」は、中国では日本以上に売れていて、昨年なんと1000万部を突破したという。

 テレビ世界での、この人の活躍については言うまでもない(ギネス「徹子の部屋」、「ザ・ベストテン」、「紅白司会」……)。

 日本のテレビ史65年にわたり、真に最前線にびっしりいた人物というと、ほかに誰がいるのだろう。

 「徹子の部屋」という名の番組として、バランスをとるというか、「徹子が聞く部屋」だけでなく、「徹子が語る部屋」もいちど特番的に制作してほしいものだ。

 お遊び企画的に、ゲスト/ホストをチェンジした回は過去にあったようだけれど、もっと本格的に、長いテレビ史やお部屋史をじっくり回想してもらうものを。

 誰がそこで、聞き手をつとめるのか?

 「徹子の部屋」は、歌手や演奏家をゲストに呼ぶと、ミニコンサートをしてもらったり、お笑いやものまねの人を呼ぶと、ホットな持ちネタを披露してもらったりする。

 私はこれからすごく論理的なことを書こうとしてるが、そうであれば、「聞く力」で知られた人物を部屋に呼んで、聞き手をしてもらってもよいのではなかろうか。

 第一に頭にうかぶのは、もちろん、「あ」の人である。
 聞き手の達人およびベストセラー著者として後輩であるし、徹子さんの活躍期間のほとんどをよく知る世代の人であるし(裏切者だけど)。

 そうすると私たちは、巨人V9捕手の森昌彦(祇晶)が、野村克也を打席にむかえたような場面を、すなわち「聞く力を、聞く力が聞く」みたいなおもしろい番組を、見ることができるだろう。

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