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足して二で割る落としどころ?
(2015/4/22)

 鉄道会社などが、「エスカレーターでは歩かないで」という安全キャンペーンを、しばらく前からやっている。しかし、定着しないようだ。お願いじたい、さほど広く知られていないせいもあろう。

 エスカレーター段のまんなかに、横を通れない形で立っている人と、そこまで歩いてきた人が、両方とも「ルールを守れよ」と舌打ちするような、妙な状態がいまある。

 エスカレーターは、もともと人が歩く設計になっていないそうで、具体的な事故や問題をふまえてのキャンペーンなのだろうが、電動アシスト自転車みたいに、マシンの助けで速く移動できる快感は、せっかちな日本人にはすごく合ってもいた。

 むかし、「せまい日本、そんなに急いでどこへ行く」という交通標語に対して、「せまい日本、急いで行けば早く着く」という句を作っていた人がいた。
 ただの冗談のようだが、この言葉は、問題は「どこ」でなく「時間」なんだという、日本人が急ぐ理由をくっきり浮かび上がらせてもいた。

 私たちは、電車の到着のほんの2、3分の遅れさえ、不快に感ずる、世界でも珍しい民族なのだ。
 そんな精神を、ひと一倍そなえているのは、数分どころか「数十秒」レベルで事を制御しているといわれる、ほかならぬ鉄道会社の人々かも……。

 いや、実際、次々に電車が着く混雑駅では、エスカレーター上で止まられると、ホームから人がハケず、困りさえするという。皆が歩いてすばやく移動するさまを前提に、電車の間隔を、限界まで短くしているということだろう。
 もしかするとこの辺が、鉄道会社の「エスカレーターでは歩かないで」キャンペーンに、今ひとつ本気度が感じられない理由なのか?

 あるいは、「急ぐ方のために、右側(左側)をお開けください」という表示を、少し前まで出していたから、これを突然「エスカレーターでの歩行は、事故につながり危険です」に変えると角が立つので、角は少しずつ出していこうということなのか?(エスカレーターだけに)
 こんな、寄席のようなことは絶対考えていないな……。

 あの「せまい日本、そんなに急いでどこへ行く」の名・標語(総理大臣賞受賞)から、だいぶ年月がたった。人の急ぎ方は、いまのほうが増しているように見える。

 それどころか、「せまい日本」という前提条件まで、実はじわじわ変化している。建物の高層化、大深度地下の開発などで、日本は三次元的にスペースを増しているのだ。

 その、上下に動く手段の代表が、エスカレーターである。
 特に駅のようなところでは、たとえホームが大深度地下でも、エレベーターよりエスカレーターが適している。
 加えてその場合は移動距離が長く、エスカレーターにただ立つのと、歩くのとでは大ちがいであり……。

 しかし、エスカレーター上を歩く人と、高齢者などとの接触事故は、実際に起きていて……。  

 鉄道会社の、あの穏やかな「エスカレーターでは歩かないで」キャンペーンは、混雑する通勤時には、お客さんの自発的な「お願い違反」で歩いてもらい(そこには高齢者は、ほとんどいない)、それ以外は、事故防止のためなるべく止まる方向へもっていくという、もしかすると最も害の少ない、巧みな落としどころなのかもしれない。

 「あいまい」「玉虫色の決着」「足して二で割る」という、日本流のやり方が、世界で一番せっかちで、かつ安全意識も高い日本人に、ここでもよく合っていて……。

 西洋だと、いろいろな意味で(交通の時刻表は「だいたいこのあたりで来ます」という数字であることや、小走りしている人を街でめったに見ないことや、駅ホームの通勤客の多さがよもや「押し屋」を要するほどでないことや、「あいまい」を嫌うお国柄や、交通標語をいつも俳句調にしないことを含めて)、まったくこのようではないだろう。

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