お車でお越しを
(巷で話題になっているレストランを、毎日紹介している夕方のテレビ番組。
一人の主婦が、夕飯の支度をしながらそれを見ている)
リポーター 今日ご紹介するお店は、日・米のファーストフードのアイデアを合体させた、画期的なお店なんですよ。
その名も、ドライブスルー回転寿司ぃ!
主婦 なにそれ?
(車のなかから、カメラが前方を撮影している映像に変わる。車は、屋内にある、曲がりのきつい右回りの登り坂を登っている。リポーターは、その車内の後部右に乗っている)
リポ こちら、立体駐車場によくある、らせんスロープのように見えますでしょ? ところがちょっと違うんです。このように、らせんの中心のほうを見ますと――
(カメラが少し右を向き、中心部を映す。らせんに沿って、階段の手すりのように、細長い台が連なっていて、その上に寿司の皿が並んでいる)
リポ こうやって、ドライバー席や、右の後部座席から、好きなお寿司の皿が取れるんですね!
主婦 お客さんのほうがまわる回転寿司かい……。(あぜんとする)
リポ らせんの中心では、こんなふうに店員さんが上下昇降機で動きながら、台にお寿司の皿を置いているんですよ。(手を振る)
ごくろうさまで~す。
(店員が、皿を置きながらカメラに向かってにっこりする)
リポ ドライブスルーのお店は、食べ物をクイックに受け取れることが売りですけど、こちらほどクイックなお店は世界にありませんね。待ち時間ゼロ!
では実際に、お寿司をいただいてみましょう。
ええと、そうだな、エビが食べたいなぁ。あの赤いのがエビかな?
(座席から手を伸ばして、皿を取る)
リポ あっ、なんとクルマエビでした! ドライブスルーのお寿司でクルマエビぃ!
主婦 驚いたふりして、あれはぜったい、シナリオにちゃんと書いてあったネタだヮ。
回転寿司でクルマエビなんか出したら、一皿いくらすんのよ? ブラックタイガーか何かのニセモノでしょ。
リポ ここは上りスロープですが、下りのスロープには、ケーキやフルーツなど、別の楽しい食べ物が並んでいるそうです。もちろん、また上りのほうへ戻ってきてもいいんですよ。
このビルは、もともと立体駐車場でして、土地を有効利用するために、らせんの真ん中にお寿司屋さんを加えたものなんですね。
現在も駐車場は営業しています。こちらの業種は正式には、「ドライブスルー回転寿司駐車場」なんだそうです。
主婦 長い!
正式に言われたほうが、かえってワケがわからない……。
リポ お店の名前は「寿司ぱくぱーく」さんですよ。お近くの方はぜひお立ち寄りください。
お店の方に、ちょっとお話をうかがってみますね。
(後部座席から、寿司の台越しにマイクを差し出す)
リポ こちらのご自慢の寿司ダネは何ですか?
店員 (顔を緊張させながら) そうだなあ……シャコですかねえ。シャコの豊富さでは、他のお店にぜったい負けません。
リポ さすがは駐車場。
主婦 シナリオどおりのつまらないネタ、もうやめい!
でも、いちど実物を見にいってみたい気はするわね。
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