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審議会における悲しみと喜び

(国語審議会にて)

会長 本日は私から皆さんに提案があります。討議していただき、もし了承いただけたなら、政府に建議したいと思うんですが。
委員A どのようなことでしょう?
会長 ええとですね……。

(審議委員の顔を見渡したのち、意を決した表情)

会長 「悲喜こもごも」というコトバは、どうも言いにくいですから、「悲喜モゴモゴ」に変えませんか?

(ざわざわ)

(飲み物をテーブルへ運んでいたスタッフが、思わず会長の顔を見る。
 しばし沈黙が続いたのち、重鎮の一人、委員Aが口を開く)

委員A それはいいご提案ですな。
 何を隠そう、私も昔からうまく言えないんですよ。だから、言いたいときでも避けてたくらいで。
委員B 入れ歯だと特に、「こもごも」を切れ良く言うのは不可能に近いです。
 これが「モゴモゴ」なら、いつも孫から「おじいちゃんのしゃべりはモゴモゴしてる」と言われるくらいだから、ラクでありがたい。
委員C 日本語の歴史をふり返れば、言いにくいという理由だけで、言葉がどんどん変化していますものね。
委員A 「こもごも」は交じることですから、悲喜が「まじってモゴモゴになる」という解釈で、よろしいんじゃないですか。
委員D それに、「ひきこも」という音の並びは、何だか、引きこもりを連想させて良くないという問題もある。
会長 あれ? ええと……反対の方はありませんか?

(シーン)

会長 賛成の方、いちおう挙手いただけますか?

(全員が、我先にと手を挙げる。
 別席の事務方まで、思わずさわやかな笑顔で手を挙げている)

委員A この議題は、賛否モゴモゴでは全然ありませんでしたなぁ。(笑い)
委員E こういう良いご提案は、すぐ建議しましょう。

(拍手)

会長 (まるで反対がないとは……。いつも満場一致になりそうだとゴネる、あのじいさんまで。
 やはりみんな苦労していたのか)
委員F (こんなにモメない議題は初めてだけど……そもそも国語審議会って、まだあったんかいな?)

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