ライバルに学べ
(プロ野球、□□-△△戦。
同点で迎えた終盤、ノーアウト・ランナー3塁の場面で、バッターが浅いレフトフライを打ち上げる)
アナウンサー ……レフト捕りました。これを見て3塁ランナー、タッチアップ。
ああっ、何ということだ! レフトの球岡がスタンドを向いて、捕ったボールを思いきり投げ入れたぁ。
3塁ランナー、いまホームイン! 思わぬ形で均衡がやぶれました。
(どよめく観客。観客に向かって手を上げるレフト球岡)
(ショートの広岡が走り寄る)
広岡 何やってんだ! アウトカウントまちがえたのか? まだノーアウトだぞ。
球岡 そうじゃないんですよ。われわれバックも、時に意表をついて攻撃参加すると、試合が盛り上がるんじゃないかと。
広岡 バックが攻撃参加ぁ?
サッカーじゃあるまいし、野球のバックが攻撃に参加してどうすんだ!
球岡 くやしいじゃないですか、広岡さん。若者の間では、このごろスポーツの話題といえばサッカーですよ。
サッカーの良いところは取り入れて、魅力アップしていかないと。
だから意表をついて――
広岡 意表をつきすぎだ! 守備側がスタンドへボールを入れたって、ホームランにはならんのだぞ。
逆に、相手に点が入っちまったじゃないか。
球岡 サッカーには「オウンゴール」というのがあるじゃないですか。自分で点を献上しちゃうやつ。
あの悲しい味わいも取り入れて――
広岡 お前いっそ野球をやめて、サッカー選手になれよ。
そっちでバック攻撃でもオウンゴールでも、好きなだけやればいいだろ。
球岡 広岡先輩は、野球に対するボクの熱い思いがわからんのですか!
このままじゃ野球ファンは、ボクらには正直いちばんどうでもいい、おっさんばかりだ。
(コーチが外野まで走ってくる)
コーチ どうした球岡。アウトカウントまちがえたのか?
広岡 たぶんコーチには、ぜったい想像もできない出来事です。
コーチ 来る途中、お前の表情を見ていて、そんな予感はしているよ……。
球岡 すべてはサッカー人気に負けまいという思いからなんです。
広岡 お前は日本プロ野球連盟か! 選手は敵チームに勝つことだけ考えろ。
球岡 敵とか味方とかいったって、ここにいるのはみんな野球仲間じゃないですか。いっしょに野球の将来について考えましょう。
コーチも、議論に加わってください。
(審判が走り寄ってくる)
審判 おーい、早くしてくれよ。要するにアウトカウントまちがえたのかぁ?
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