男たちのパフォーマンス
(とある海水浴場に、そろいのTシャツを着た、30人ほどの男が現れる。
男たちは、かなり密な間隔で、たて一列にならぶ。「小さい前へならえ」状態。
何が始まるんだろうと、集まってくる海水浴客)
(列の最後尾から、少し離れたところに、説明役のリーダーが立ち、海水浴客に話しかける)
リーダー 我々は、「パフォーマンス集団・ウルトラ」といいます。皆さんが、今まで見たことがないようなパフォーマンスをお見せします。
できるだけ、私の近くに来てください。彼らの列の、横側にいてはだめですよ。
それじゃ、準備!
(男たちが、いっせいにTシャツを脱ぐ。
こちらに見えている最後尾の男の背中に、大きな絵が現れる)
客A あ、ウルトラマンの入れ墨だ。
客B アメリカじゃ、カートゥーン・キャラの入れ墨を、平気で入れちゃう人がいるけど、ウルトラマンを彫るとは。
リーダー 彼らは全員、ウルトラマンの入れ墨をしています。絵は少しずつ違いますけど。
皆さんいいですか? それじゃ、やりますよ。
始め!
(男たちが最後尾から、一人ずつ機敏にしゃがんでいく)
客A あっ、パラパラマンガだ! ウルトラマンが走って見える!
客C このためだけに、痛い思いをして背中全面に入れ墨をして、それを一生背負っていくとは。
客D 何という…………人たちだ。
客B よくもこれほどの人数が、みんなして……。
リーダー 皆さん、驚いたでしょ?
客A そりゃ驚きましたよ。(ウルトラマンの動きとは、別の意味でだけど)
リーダー これはどこへ行って披露しても、仰天されます。
用事で参加できないメンバーが一人でもいると、絵がきちんと動いて見えないんで、やるのがなかなかたいへんなんですよ。
ウルトラマンの走り方、みごとだったでしょ?
客A そこには実は、あまり意識が行きませんでしたが。
リーダー このパフォーマンスには一つ欠点がありまして、絵がパラパラ動いて見える鑑賞位置が、限られているんですね。
列の真後ろ、このへんに頭を寄せ合うようにして、せいぜいお客さん5人くらいまでかな。だから、いちど真後ろから見た方は、ほかの方に入れ替わってください。
それじゃ、第2回目、行きますよ。
よぅし、準備!
(男たちが、また立ち上がる)
リーダー あ、お嬢ちゃん、ここに立つと見やすいよ。
(遠くから様子を見ている海水浴客)
客E 血のにじむとてつもない苦労をして、効果がすごく小さいことをやる人たちがいるもんですなあ。
客F 世のなかが、平和な証拠ですかなあ。
戻る