りりしいお供
(顔なじみの主婦ふたりが、道で出会う。片方は犬を連れている)
A こんにちは。
B あら、こんにちは。
うわ! おたくのブルドック、久しぶりに見たら、なんかすごく、りりしい顔になってません?
A (笑顔になる) ええ、実は整形手術したんですよ。
鼻を高くしたり、目のたるみをとったり……。
永遠の青春スター、ジェームズ・ディーンに、なるべく近づけてもらったの。
B ジェームズ・ディーン……。
言われてみれば、たしかに面影が。
A 哀愁を帯びた目もとの再現が、いちばん難しかったんですって。「エデンの東」の彼をイメージしてもらったんだけど。
B (名画「エデンの東」に、この犬をワンカットでも横切らせたら、全体が瞬時にコメディになるほどのパワーがあるな) これで、おいくら、かかったんですか?
A 200万円くらい。
B 200万……。
A やっぱり、元がブルちゃんだから、ビフォー&アフターの差が大きかったんですよ。
お医者さんも、特別な値段でなきゃやれないって言うし。
B 特別な値段でも、手術をしてくれたことがすごい。
A こういう素敵な顔にしてから、他の犬に、すごくもてるようになってねぇ。
B (ほんとかなあ。ブルドッグはブルドッグで、人間のことを、変な顔だと思ってるんじゃ……)
A 名前も、この素敵な顔でポチじゃおかしいでしょ? だから、ジェームズに変えたんですよ。
B おかしいのは、名前というより……。
A こうなると、欲が出てきちゃってね。からだも人間に近づけようかと。
顔だけだと、やっぱり変でしょ?
B からだも近づいた方が、さらに変だと思いますよぉ。
A あっ、そんなところにおしっこするんじゃないの!
B (体はブルドッグで、顔だけジェームズ・ディーンの生き物が、片足を上げておしっこをしながら、こっちを見ている。シュールな光景だ……。今晩、きっと夢に出てくるヮ)
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