ある新興勢力
(大都市にある、巨大な歓楽街・N町。ホストクラブが乱立気味になっていて、店同士の競争が激化している。
そこへ新規参入しようとしている猛者たちの会話)
A 前から思ってたんだけどさ。
B 何です?
A ホストっていうと、なぜヴィジュアル系の、美しい男ばっかりなんだろか? 女の場合と、似た方向の美しさっていうかさ。
B まあ、ふつうはそうですね。
A そういうのはむろん需要あるけど、こんなに方向が偏ってなくてもいいと思うんだよな。
B というと?
A たとえば男だったら、スレンダーな女の子がいいという人もいれば、グラマーな女の子がいいという人もいるだろ?
だからホストの場合も、ほっそりした美形だけじゃなくて、ボディビルダーとか、プロレスラーとか、筋肉系の男だけがいるホストクラブを作ってもいいんじゃないか?
もちろん、そこそこオトコマエじゃなきゃいかんが。
B なるほど、少なくともN町には、そういう店は1軒もありませんね。
A そっち方向の人材は、まだあんまり開拓されてないから、いいスターが見つかるんじゃないだろか。
(半年後。N町に「ホストクラブ ザ・マッスル」が開店する。
店の前に、筋肉隆々の男の大きな人形。
店内を、レスリング・ユニフォームを着たり、相撲のまわしを付けたりしたホストが歩いている)
H 僕は学生のころ、ずっとレスリングやってましてね。いまはボディビルが趣味なんです。
客A 胸の筋肉なんか、盛り上がっちゃってすごいわね。ちょっと、さわってもいい?
H ええ、いいですよ。
客B 締まって上を向いたヒップも、魅力的よね。
私もちょっといい?(OKが出る前に手を伸ばす)
(客たちのタッチ攻撃を遠くからながめている店長)
店長 男女とも、狙われるポイントはわりと似たとこなんだなあ。
これは何か生物学的な理由があるんだろか?
客C うちのだんなはぜんぜん筋肉が無いんで、鍛えた筋肉をちょっと触ってみたくてね。
それにしてもすごい腕の太さ。
(上腕の太さを確かめるように、両手で輪っかを作って当てる)
客C ぎりぎり、届くくらいね。
H こんなもんじゃないっスよ。(上腕にクイッと力を入れる)
客C うわっ、ふわふわだったのに急に……。
やっぱり全体に、そういうふうにできてるのかしらね。
客D (入り口で) 男の客も、入っていいんでしょうかね?
店長 けっこうなんですが……ボディタッチはご遠慮いただくということでいいですか。
異性の方だと、若干はありなんですが、うちの者は、そちらの方向は慣れていないもんですから。
客D わかりました。じゃあ、お話だけということで。
(「ザ・マッスル」は大繁盛。徐々に、遠来の客も増してくる。
その人気を見て、近くの店も次々にホストのタイプを変え、マッスル系へ移行。
通りが類似店であふれる)
(しかし、過当競争で共倒れするかと思えば、有名な古本屋街のごとく、通り全体が一つの名所と化し、やがてその一帯は「マッスル横丁」と呼ばれるようになったとさ。とっぺんぱらり。)
戻る