なかたがい
(ダンディなコーラス・グループ「磯部又造とブロッコリーズ」。リーダー磯部の脱退を受け、雑誌記者が残る三人のメンバーに取材)
記者 磯部又造さんが、人間関係のもつれから脱退したわけですが、活動を継続するあなたがたのグループ名は、なぜ今後も「磯部又造とブロッコリーズ」のままなのですか?
メンバーA あの傲慢なリーダーのことは、顔を思い出すのもいやなんですが、このグループ名そのものは、私らみな大好きなんです。
磯部又造というのは、人の名前ではなくて、ただの、音の響きだと思ってください。
記者 でもこのグループ名を聞いたら、どうしてもあの磯部又造さんを連想しちゃいますよ。
メA 最初はそうでしょうけど、すぐそうじゃなくなりますよ。
記者 そうかなあ……。
メA たとえばテレビ番組で、だれかが明石家さんまさんの名前を言ったとき、いちいち魚のさんまを連想してる人なんていないでしょ。
最初のうちは変だって、慣れたら、意味のない音の響きになっちゃうもんですよ。
記者 しかし――グループ名の「磯部又造」という部分を、どなたかの名前に変えることは考えなかったんですか?
メA 考えませんでした。ブロッコリーズの前につくのは、音の響きから考えて「いそべまたぞう」しかないんです。
記者 私が音感的に鈍いのかもしれませんけど、別の名前でもいいような気がするんですが――。
メA そりゃだめですよ。あなた、うなぎに山椒でなく、胡椒をかけて食べられますか? たった1文字変わっただけでも、味わいはすごく変わっちゃうんです。
磯部又造は、磯川又造でも、磯野又造でもいけません。磯野又造なんて、まるでサザエさんみたいじゃないですか!
記者 別に私が言ったんじゃありませんよ。
メA 逆に言えば、磯部又造がリーダーだったからこそ、ブロッコリーズという名前も生まれたんです。
いそべぇ、またぞぉうと、ぶろっこりぃ~ず。
これは音符の無いメロディなんです。
メンバーB ああ、今いいこと言った。
ピンカラヒレホリ、ピンカラヒレホリ(記者の携帯電話が鳴る)
記者 はい、はい。えっ、何! そりゃほんとか? ふむ。ふむ。よしわかった、またあとで連絡する。
たいへんなことになりましたよ。脱退したリーダーが、「磯部又造とブロッコリーズ」という名前でソロデビューする考えを、きのう知人に話していたそうです。
メA なんだって? 自分からグループを出ていった人間が、そりゃないだろう。
メB ブロッコリーズという、複数形の立場は、いったいどうしてくれるんだ?
メンバーC そんな変な名前のソロ歌手が、今まで一人だっていたか?
記者 (あんたらのグループ名だって十分変だよ)
メA でも、リーダーもこの名前を、すごく気に入ってたんだなあ。
メB そうだなあ。いがみあったけど、ほんとうは深いところで心が通じてたんだ。
メC だから名前だって変えがたいんだし……。
メB もう一度、「磯部又造とブロッコリーズ」、みんなでいっしょにやってみようか?
メA うーん。しかし、こっちがそう思ったところで――。
タラヒレタラヒレ(携帯が鳴る)
メA あ、オレの携帯だ。
(表示を見る) リーダーからだ! もしかすると同じことを……。
もしもし。はい、私です。
はい、はい……あ、メンバーみんな、ちょうどここにいます。ええ、三人とも。
はい……ええ……実はいま、こっちも同じこと考えてたんです。
やっぱり一方だけで続けたって、名前だって変ですしね。……そりゃあファンだって。
あ、泣かないでください。
おい、おまえらも泣くなよ。泣くんじゃない――ぐすん。
記者 おれももらい泣きだあ。
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