最もメジャーなマイノリティの会
(とあるホテルの宴会場。年齢、性別、服装、まるでばらばらな人が、500人ほど集まっている。
ほとんどの人が初対面のようだが、開始前からふしぎに親密な空気が漂っている)
司会 では定刻となりましたので、始めさせていただきます。
単に「左利き」という共通点だけで、人を集めてパーティーをしたらどうか――そんな軽い思いつきで、ネットで参加募集したら、こんな人数になってしまい、驚いています。
(拍手が起きる)
司会 それでは親睦のため、ご来場いただいた皆さんで、最初に握手をすることにしましょう。ふつうならこんなことやりませんが、私たちの場合、特別な機会ですので。
では、お近くの方と握手をどうぞ。もちろん利き手で。
(最初おずおず手を出していた人々の表情が、だんだん歓喜に変わってくる)
A 利き手で、相手と次々に握手ができる!
やってみると、これは思いがけぬ快感だ。ギュッと、しっかり手を握ることができる。
B 利き手だと、相手とちゃんと握手した感じがしますよね。これでこそあいさつですわ。
なるほど、右利きの人たちは、こういう感触と共に交流していたのか。
C 彼らは、「相手はどっち利きだろうか」なんて、みじんも考えずに右手を出しますからなあ。多数決が原則の社会と言われれば、それまでだけど。
D 実は二人とも左利きなのに、右手を出して握手している場合があるだろうと思うと、悲しいですよね。
(司会が、そろそろ終わりにしましょうと言っても、なごり惜しんでなかなか握手が終わらない)
E これだけでも、今日参加した価値があったヮ。
F もう一生、こういう体験はできないかもしれないなあ。あとの時間、ずっとこれでもいいや。
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